夜間飛行

茂木賛からスモールビジネスを目指す人への熱いメッセージ


“世間”の研究

2020年12月27日 [ アート&レジャー ]@sanmotegiをフォローする

 「日本語を鍛える」の項などで書いてきた日本の“世間”というものを、推理小説の形で描き続けているのが、作家横山秀夫氏だ。1957年東京生まれ、国際商科大学(現・東京国際大学)卒業、上毛新聞記者(12年間)を経て作家として独立、とウィキペディアにある。2005年に単行本が出た氏の5作目の長編小説『震度0(ゼロ)』(朝日文庫)は、N県警察本部で起こる警務部警務課長の失踪がテーマ。本カバー裏表紙の紹介文には、

(引用開始)

阪神大震災の前日、N県警警務課長・不破義仁が姿を消した。県警の内部事情に通じ、人望も厚い不破が、なぜいなくなったのか? 本部長をはじめ、キャリア組、準キャリア組、叩き上げ、それぞれの県警幹部たちの思惑が複雑に交差する……。組織と個人の本質を鋭くえぐる本格サスペンス!

(引用終了)

とある。警察という組織は、階級や先輩・後輩関係がものをいう閉鎖的な世界だから、“世間”の特徴を描き出すのにうってつけだし、仕事上常に共同体のリアルと対峙しているからドラマが作りやすい。

 作品は県警の幹部公舎と本部庁舎を舞台に、震災発生の朝から3日間(約53時間)の出来事として、警務課長失踪の謎が(65の章に分けて)描かれる。震災発生当日AM5:48本部長公舎が1の章、3日目AM10:35県警警備部長室が65番目最後の章。場面は全部で15か所、

《N県警幹部公舎》
・本部長公舎
・警務部長公舎
・刑事部長公舎
・警備部長公舎
・交通部長公舎
・生活安全部公舎
・総務課長公舎

《N県警本部庁舎》
・県警本部庁舎
・2F本部長室
・2F 警務部長室
・5F刑事部長室
・別館2F警備部長室
・別館2F警備第二課
・3F交通部長室
・4F生活安全部長室

話は時間を追ってこれらの場面を巡り、そこでの登場人物の思惑、会話や電話、背景説明や会議の模様などを通して、事件の全貌が少しづつ見えてくる仕掛けになっている。主な登場人物は、

〇本部長・椎野勝巳、46歳、警視長。警察庁キャリア
〇警務部長・冬木優一、35歳、警視正。警察庁キャリア
〇刑事部長・藤巻昭宣、58歳、警視正。地元ノンキャリア
〇警備部長・堀川公雄、51歳、警視正。警察庁準キャリア
〇交通部長・間宮民男、57歳、警視正。地元ノンキャリア
〇生活安全部長・蔵本忠、57歳、警視正。地元ノンキャリア

とその妻たち。勿論失踪した警務課長・不破義仁とその妻、さらには地元の商工会議所や闇金融業者、新聞記者といった面々もストーリーに関わる。

 県警幹部公舎と本部庁舎という閉じた空間における、同調圧力や妬み嫉みなどの「情」に支配された男女の振舞いを、試験管の中の化学変化を観察する科学者のような目で横山氏は綿密に描き出す。そこにはまた、「三つの宿痾」の項で述べた、人の過剰な財欲と名声欲、官僚主義や認知の歪みが絡んできて、ドラマが複雑になり謎が深まる。

 小説タイトルの『震度0(ゼロ)』とは、警務課長失踪という不測の事態に直面したN県警幹部たちの慌てふためき振り、県警という狭い“世間”での激震を、震度7ともいわれる阪神・淡路大震災の実際と比べた著者の皮肉なのだろう。この作品に限らず横山氏の小説は、人間観察の深さとその描写力において他の類似する推理小説を凌ぐと思う。“世間”を研究する上でも一読をお勧めしたい。

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posted by 茂木賛 at 12:16 | Permalink | Comment(0) | アート&レジャー

Merry Christmas! 2020

2020年12月08日 [ アート&レジャー ]@sanmotegiをフォローする

 友人(K-Kodama君)とのバンド「HUSHBYRD」のサイトに、2020年クリスマスのための新曲をアップしたのでどうぞ(サイトをクリック)。

 曲名は「Proof Of Life」。イソップ寓話の「金の斧」を下敷きにしたもので、Beatlesの「Norwegian Wood (This Bird Has Flown)」と同じ3拍子の作品。

 数えてみたら、この曲を含めて今年に入ってからすでに14曲をアップしている。曲ほとんど相棒K-Kodama君主導で作るのだが私の作詞や作曲もある。曲名とアップした月を順番に書き出してみると、

1.「Without You」(2月)
2.「Be Right There」(2月)
3.「ジェニーはご機嫌ななめ」(2月)
4.「桜の川岸で」(7月)
5.「春の雨」(7月)
6.「La Sceine」(7月)
7.「Glory Air」(7月)
8.「君はボクのStarlight」(7月)
9.「Gallop」(8月)
10.「Flower Never Bends」(8月)
11.「Night In Prague」(10月)
12.「On My Way」(10月)
13.「Proof Of Life」(11月)
14.「Chicago」(11月)

2月から7月の間にアップがないのは、コロナ禍の影響で原村のスタジオに出かけられなかったせい。

 下手な歌唱力ではあるが楽しんでやっている。暇があって昔っぽい曲の好きな人は、サイト内にある「To The Albums」というボタンをクリックして聴いてみて欲しい。

1.から3.までの曲は7枚目のアルバム『CEDER BREEZE』に収録。
4.から13.までの10曲は8枚目のアルバム『AIR TWISTER』に収録。
14.は9枚目の新アルバム『DOTS & BOWLS』に収録。

一つか二つ気に入ってもらえる曲があるかもしれない。サイトへの投稿も歓迎!

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posted by 茂木賛 at 11:35 | Permalink | Comment(0) | アート&レジャー

中国ビジネス II

2020年12月05日 [ 起業論 ]@sanmotegiをフォローする

 中国の話を続けよう。最近(2019年11月)出た『中国の行動原理』益尾知佐子著(中公新書)という本は、エマニュエル・ドット氏の家族類型論をベースに、中国人の行動原理を分析している。副題は「国内潮流が決める国際関係」。新聞の書評には、

(引用開始)

大胆な発想で緻密に分析

 中国共産党政権の対外政策の根っこにある考え方に迫ろうと試みた一冊。著者が手がかりとするのは、フランスの社会学者エマニュエル・ドット氏が打ち出した家族類型論である。それによれば中国の伝統的な家族構造は、父親が家族に対して圧倒的な権威を持つ一方、相続の面で男の兄弟は平等な「外婚制共同体家族」だという。
 この家族構成を基礎とする社会の秩序には4つの特徴がある、と著者は指摘する。ひとつには、最高指導者に権威が集中する。第2に組織内の分業はボスが独断で決める。第3に、部署の間では競争や対立が起きがちで、連携や協力は難しい。
 そして最後に、組織全体としての凝集力や運営方法に安定性がなく、トップの寿命や時々の考え方によって波が生じる。そうした波の表れとして、著者は毛沢東時代からの対外政策の変動を読み解いている。
 著者みずから「学術論文では書けないざっくりさで」と表明しているように、かなり大胆な議論ではある。ただ、研究者らしい実証的な分析がふんだんに盛り込んであって、読み応えがある。東南アジア諸国連合(ASEAN)との交流の窓口が広西チワン族自治区になった経緯や、東シナ海などの海洋問題が近年に噴出した背景の検証は綿密で、興味深い。

(引用終了)
<日経新聞 1/25/2020>

とある。

 同書によると、エマニュエル・ドットの家族類型はまず、

@親子関係が自由で兄弟関係が不平等な「絶対核家族」
A親子関係が自由で兄弟関係が平等な「平等主義核家族」
B親子関係が権威的で兄弟関係が不平等な「権威主義家族」
C親子関係が権威的で兄弟関係が平等な「共同体家族」

の4つに分けられる。親子関係が自由か権威的かとは、子供が結婚後も親と同居するなら権威的、独立するなら自由とする。兄弟関係が平等か不平等かとは、相続にあたって親の財産が男の兄弟の間で均等に分割されるなら平等、1人を残してその他が相続から排除されるなら不平等とする。例として、

@はイングランド、オランダなど
Aはフランス北部など
Bは日本、朝鮮半島、ドイツなど
Cは中国、ロシアなど

が挙げられている。Cの「共同体家族」は、近親婚(主としていとこ婚)のタブーがどの程度許容されるかによってさらに、

●外婚制共同体家族:いとこ同士の結婚不可
●内婚制共同体家族:いとこ同士の結婚の許容
●中間形態型共同家族:兄妹・姉弟の子供同士の結婚の許容

に分けられ、近親相姦を厳しく禁ずる中国は、「外婚制共同体家族」の家族形態をとるということになる。

 著者はこの家族形態が中国の社会形態のモデルとなっているという。

(引用開始)

 中国の外婚制共同体家族では、共同体の正式な成員である男子同士は、基本的に父と息子の上下の権威関係の束で構築されており、平等を建前とする兄弟間の横の結びつきは希薄、あるいは緊張含みですらある。筆者の経験では、中国社会がこうした家族形態を組織作りの暗黙のモデルにしていることを念頭におけば、中国の社会組織、またその動き方がとても理解しやすくなる。中国人の組織の作り方や組織の動き方は、今日でも基本的に、この外婚制共同体家族のあり方に沿ったものだからである。

(引用終了)
<同書 68ページ>

新聞書評にある中国社会秩序の4つの特徴、

1.最高指導者に権威が集中する
2.組織内の分業はボスが独断で決める
3.部署の間では競争や対立が起きがちで、連携や協力は難しい
4.組織全体としての凝集力や運営方法に安定性がない

はここから生じてくる。これらの特徴は、「中国ビジネス」の項で見た、

〇聖人による政治、宗族による禅譲が理想
〇文民支配だがランキングに異常な拘りが生まれる
〇党派闘争が起る

といった社会学的理解とも符合する。中国でビジネスを展開する際に留意しておきたい彼らの行動原理である。

 著者は、中国の社会組織の特徴を、日本の伝統的な「権威主義家族」のそれと比較して次のように書く。

(引用開始)

 日本人が作る伝統的な社会組織は、階層が何層にも重なり、家系図のように枝分かれする。家のなかでは自分がいて、両親がいて、祖父母がいて、さらには曽祖父母がいるかもしれない。しかしそれ以外にも、叔父さんや叔母さんの一家も近くに住んでいて、家族のようにふる舞っているかもしれない。伝統的には、こうした家族はずっと一緒に、あるいはすぐ近くに住み続け、組織は長期持続を前提とする。
 日本では一般的に、年長者ほど、上の世代であるほど敬意を受ける。また長男は家を継承できるため、同じ世代のなかにも明確な序列がある。ただし日本では、跡継ぎとして家業や本業を継承する長男には、年少の弟や姉妹、さらには分家の面倒をみる義務もあり、兄弟は親が死んだ後も一族として親しい関係を保ち続けることが多い。
 これは会社にあてはめれば、平社員の上に、係長、課長、部長、社長がいて、それから会長がいる、そういう階層的な組織である。同期のメンバーは、仕事ができて将来を嘱望される社員と、あまりそうではないが組織のなかでそれなりに役割を果たしている社員とに分かれている。ただし基本的には、年をとればみんなある程度は尊重されるため、組織のなかで待つことが重要である。またこのなかでは、権威と責任は一番年長の父親だけに集中するわけではない。それぞれの世代の何人もの人に段階的に分散する(たとえば次男は三男より少し立場が上である)。
 では、こうした組織のなかで人々はどう動くのか。あなたが平社員だとする。担当係のなかで問題が発生し、係長がうまい指示を出せないでいる場合、あなたはどうするだろうか。多少は待つだろうが、このままでは組織全体にとってまずいなと思ったとき、多くの人は機会を捉え、課長や部長に問題を報告、もしくは相談するのではないだろうか。
 あなたがそれによって、課長や部長が係長に対して直接何か行動を起こしてくれるのを期待しているかもしれない。日本の組織では、現場からのボトムアップの提案は、組織を守るために必要不可欠とみなされることが多いし、あなたが組織に咎められるリスクはほとんどない。もしかすると、課長や部長はあなたのことを気の利く奴だと評価してくれるかもしれない。
 日本では、組織のどこかで問題が発生すれば、組織を守るために誰もがどんな役割もこなす。総合職で採用された人間が、最初工場まわりから始めるのは当然である。組織のメンバーはその全体的な仕組みを理解しておくべきで、これを後輩に教え込むのは先輩の重要な役割である。
 このようなシステムのなかでは、権威は多くの人物に分散する。そのため組織内で誰が実権を持つのかが特定しにくい一方、組織は一丸となって繁栄をめざし、他者に対して排他的なグループを形成しやすい。(中略)
 なお、念を押しておくと、筆者の目的は、中国よりも日本の社会の方が優れていると主張することではまったくない。日本社会が地上の楽園ではないことは、われわれ自身がよく知っている。いわゆる「あの戦争」で、日本は責任の所在すらはっきりさせないまま、他者の尊厳を顧みない対外的軍事行動を国家一丸となって拡大させた。これは日本型の社会秩序が最悪の形で機能した例であろう。そこまでいかずとも、日本では重層的で固定的な階層構造が人々の日常生活の隅々まで規定し、少しでもそのルールに抵触する行動をとれば冷遇される。電車のなかで子供が走り回るなど、あってはならないこととされる。
 それに比べれば中国では、組織全体の統制力は緩い。ボスの価値観に抵触しない限り、個々の人々はわりと高い独立性を持って勝手に愉しくやっており、それなりの気楽さがある。ボスにダメだと言われない限り、中国人は自由である。他人の子供が走り回っても、中国人はまず気にしない。
 それぞれの国の社会秩序は、よし悪しの問題では議論できない。中国でも日本と同様に、伝統に基づく独自の秩序が生き続けているというだけである。

(引用終了)
<同書 69−83ページ(フリガナ省略)>

後半の話は、「中国ビジネス」の項で紹介した『男脳中国 女脳日本』の観察とも繋がってくる。

 日本の伝統的な「権威主義家族」は、「百花深処」<近世の「家(イエ)」について>の項でみた江戸時代の「家(イエ)」制度と、明治以降の家父長制度とを源泉に持つのだろうが、「日本語を鍛える」の項で述べた日本語近代化の失敗、戦後のGHQによる変革と「近代家族」の項でみたような家族意識、さらに最近のモノコト・シフトによる意識変化によって、複雑骨折の様相を呈している。この問題は項を改めて書いてみたい。

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posted by 茂木賛 at 10:55 | Permalink | Comment(0) | 起業論

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