夜間飛行

茂木賛からスモールビジネスを目指す人への熱いメッセージ


“群れ”と“集団”

2020年08月20日 [ 言葉について ]@sanmotegiをフォローする

 先日「敬語システム」の項で、「日本語はとにかく述語が大事で、主語なんかなくてもかなりのことがやっていける」という清水由美さんの言葉を引用した。前回「応仁の乱後の日本」の項で紹介した藻谷浩介氏の『和の国富論』(新潮社)という対談本のなかに、「言動に主語を入れなさい」という言葉があるので、面白い対比としてその部分を紹介したい。

 同書第四章<「崩壊学級」でリーダーが育つ>、対談の相手は菊池省三氏(元小学校教師)。この中の「群れ」と「集団」の定義が秀悦なので今回タイトルに拝借した。

(引用開始)

藻谷 菊池先生の『学級崩壊立て直し請負人』(新潮社)は、もう酒飲みがビールを飲むがごとく、ごくごくと読めた本でした。そして学級崩壊というのは、一部の学校の中の特殊な問題であるどころか、日本中に蔓延した現象に気づかされました。今や国会でも互いに好き勝手なことをしゃべっているだけで、そこにコミュニケーションが成立していない。この本に出てくる崩壊した学級とは、大人社会の鏡ではないでしょうか。
菊池 「教室は社会の縮図」なんです。言葉の使い方、コミュニケーションの取り方、ディベートのルール、学校でそういうことを教えないから、そういったことができない大人が増えた。
 でも、最近は学級崩壊ってあまり言われなくなったでしょう? それは学級崩壊がなくなったわけではなく、ある意味当たり前になり過ぎたから、ニュース性がなくなってしまったんです。(中略)
藻谷 そもそもいわゆる「選良」が集まるはずの国会が、学級崩壊状態になっていたりします。菊池先生の言葉で言えば、あれは「集団」ではなく「群れ」になっているように見えます。
菊池 その対語は故・阿部謹也先生の『「世間」とはなにか』(講談社現代新書)という本から着想を得たんですが、個人が自分らしさを発揮して自立しているグループが「集団」。個人の考えよりもその場になんとなく流れる空気、特にマイナスの空気が勝るのが「群れ」と定義しています。子供たちには「群れるな、集団になれ」とよく話しています。

(引用終了)
<同書 119−121ページ>

「言動に主語を入れなさい」という話はこの先に出てくる。菊池氏の『学級崩壊立て直し請負人』にある言葉で、藻谷氏が他の言葉と一緒に抜粋したリストの中にある。ここではそのリストを引用掲載しよう。

(引用開始)

菊池学級の「価値ある言葉」
*『学級崩壊立て直し請負人』(新潮社)の中から藻谷が抜粋。

・公の言葉を使いなさい
・話は一回で聴くのです
・率直な人は伸びる人です
・あふれさせたい言葉、なくしたい言葉を意識しなさい
・はきはきと美しい日本語で
・世のため人のために何をしていますか?
・当たり前のことを当たり前にするのです
・言動に「主語」をいれなさい
・もっと簡潔に話しなさい
・昨日よりも成長したことを言いなさい
・恥ずかしいといってもなにもしないのが恥ずかしいのです
・持てる力を発揮しなさい
・理由のない意見はいじめと同じ
・その行為・言葉の周りへの影響を考えなさい
・誰とでも仲良くします、できます
・あいさつ、そうじもできないで他に何ができるのですか
・自分の意見を言って死んだ人はいません
・知恵がないものが知恵をしぼってもでてきません。だから、人に会い本を読むのです。
・「分からない」という言い訳はしません
・性格が変われば顔が変わる
・ズバッといいなさい
・できないのですか? しないのですか?
・成功するまで続けるのです
・準備もしないでその失敗は当たり前です
・負荷を楽しみなさい
・あなたがビシッとすればみんなもビシッとします
・前の人と同じことは言いません
・基準はあなたではなく常識です
・今日までにできなかったことがなぜ明日にできるのか?

(引用終了)
<同書 123ページより>

いかがだろう。「群れるな、集団になれ」、「公の言葉を使いなさい」、「言動に主語を入れなさい」というのは、複眼主義の対比、

A Resource Planning−英語的発想−主格中心
a 脳(大脳新皮質)の働き−「公(Public)」
A 男性性=「空間重視」「所有原理」

B Process Technology−日本語的発想−環境中心
b 身体(大脳旧皮質及び脳幹)の働き−「私(Private)」
B 女性性=「時間重視」「関係原理」

でいえばA側の発想である。菊池氏の相手にするのは、幼少期からB側にどっぷりつかって育てられたであろう日本人の小学生、ということで、ことのほかA側を強調されるのだと思う。一方、「日本語はとにかく述語が大事で、主語なんかなくてもかなりのことがやっていける」というのは勿論B側の発想。清水さんが相手にするのは、A側には慣れ親しんでいるであろうけれどB側に馴染みのない外国人、ということで、ことのほかB側を強調されるのだろう。複眼主義の観点からいえば、両者のバランスが大切ということになる。

 『和の国富論』という本は、これまで「里山システムと国づくり III」、「個業の時代」、「日本流ディベート」などの項でも引用紹介した。併せてお読みいただければ嬉しい。「日本流ディベート」の引用箇所は、本項で引用した対談の後半部分に当る。

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posted by 茂木賛 at 09:26 | Permalink | Comment(0) | 言葉について

応仁の乱後の日本

2020年08月01日 [ 起業論 ]@sanmotegiをフォローする

 先日「周辺国で完結する市場」の項の最後に、コロナ後の社会のあり方について、「監視社会下でのグローバル資本主義ではなく、よりローカルな“コト”を大切にしてゆくにはどうしたら良いか。さらに考えたい」と書いたが、「里山システムと国づくり」や「個業の時代」の項などでその著書を紹介した藻谷浩介氏(地域エコノミスト)は、今の日本の状況を「応仁の乱頃の日本と似ている」と述べておられる。『「再エネ大国日本」への挑戦』山口豊+スーパーJチャンネル土曜取材班著(山と渓谷社)から、山口氏との対談の一部を引用しよう。

(引用開始)

藻谷 「田舎など要らない、都会がすべてだ」という発想は、室町時代中期の応仁の乱の頃の、京都に引きこもっていた公家衆とよく似ていますね。歴史は同じパターンを繰り返すんです。
 応仁の乱を経て、日本中の田舎が、「都に年貢を送るのはばかばかしい」と言い始めました。それで京都の経済基盤は崩壊し、日本は地方地方で経済基盤を蓄えた戦国大名の時代になったわけです。
ですが京都の公家から地方の大名に転身できたのは、京を捨てて高知県の中村に移った土佐一条氏だけでした。これも長曾我部にやられてしまうわけですが、とにかく室町時代半ばまであんなに威張っていた公家は、戦国時代には権力者になれなかったんですね。
 国際化も同じで、地方の大名が南蛮貿易で力を蓄えたのに対し、京都の公家は伝統にこもって西洋社会に無関心でした。
 驚くほど外国に無関心で、内輪の論理で動いているのは、東京の多くの大企業や政府組織も同じです。彼らこそ、昔の京都の公家の現代版ではないでしょうか。(中略)京都の公家が全然気づかないうちに、関ヶ原の東の尾張の国の守護代の、そのまた分家だった織田家が、津島の港を差配して経済力をつけていた。そこから信長が出てくるわけです。独自に大陸貿易をしていた山口の大内氏も富を蓄え、それを接収した毛利氏が強くなる。豊臣政権は大阪の貿易で稼ぎ、徳川政権は辺境だった関東平野の生産力を高めました。他方で、京都の公家の収入源だった荘園は死滅し、京都周辺にいた商人も、大阪や江戸に移住して発展していったのです。
 これから東京の収入源がどうなっていくのかはわかりませんが、エネルギー自給率を高めて経済力をつける地方は、東京がどうなろうとも増えていくでしょう。

(引用終了)
<同書 214−228ページ>

今の時代を応仁の乱頃と比べる視点が面白い。応仁の乱後、日本は群雄割拠の戦国時代へ入っていくわけだが、これからの日本も、エネルギーや食の自給自足が進み、地方が力を付ける時代になっていくという見方である。

 この『「再エネ大国日本」への挑戦』(2020年3月1日発行)という本は、

(引用開始)

<日本には全電力の180%もの再エネが眠っている(環境省)>
日本が化石燃料の購入のために支払った19兆円(2018年度)。
このお金の流れを変えれば、日本は再生する。

2053年には1億人を下回るとされる日本の人口。
超高齢化、年金、地方消滅と多くの問題を抱えるなかで、
若い世代が増え、豊かさを実現しながら、
温暖化対策にも貢献している町がある。
その成功のヒントは、再生可能エネルギーとお金の流れにあった。
日本復興・再生への「明るい未来」を描く渾身のドキュメント!
テレビ朝日スーパーJチャンネル
土曜のメインキャスター山口豊が書き下ろした初の著書。

(引用終了)
<本帯表紙、カバー表紙裏紹介文>

ということで、“ローカルなコト”を大切にしてゆくべきコロナ後の社会へのヒントが多く描かれている。副題は「再生可能エネルギー+循環社会が人口減少と温暖化の危機を救う!」。同書の目次も以下に記しておこう。

序章  再生可能エネルギーと共生する持続可能な新しい社会
第1章 温泉エネルギー・地熱バイナリー発電でV字回復
    福島県・土湯温泉
第2章 豊かな水の小水力発電で若い世代が移住してくる村へ
    岐阜県・石徹白集落
第3章 若い移住者による起業で15億円の経済効果!奇跡の村
    岡山県・西粟倉村
第4章 捨てられていた木が莫大なお金に!「真庭システム」の挑戦
    岡山県・真庭市
第5章 太陽光の集中管理、電気自動車の大量導入でエネルギー自給50%へ
    沖縄県・宮古市
第6章 災害にも強い分散型エネルギー 地場産の天然ガス事業
    千葉県・睦沢町
第7章 再エネ大国へ、識者からの提言
第8章 再生可能エネルギー大国日本の未来

著者と藻谷氏との対談は第7章にある。

 地方は“ローカルなコト”に満ちている。『進化する里山資本主義』藻谷浩介監修、Japan Times Satoyama推進コンソーシアム編(株式会社ジャパンタイムズ出版)という本も出版された(2020年5月5日発行)。これは、

(引用開始)

<地方は“消滅”しない>
実践例から見えてきた
地域経済は関係人口でよみがえる。

金銭的利益最優先の「マネー資本主義」のアンチテーゼとして、「里山資本主義」が提唱されてから7年。本書では、実践家たちへの取材をもとに、各地で里山資本主義の種がまかれ、芽が出て、花が咲き始める様子を描きながら、そこにあった「成功要因」を明らかにする。お金に依存することなく、人と人とのつながりによって地域活性化を目指す人たちに不可欠なガイドであると同時に、日本と世界が進むべき道を明快に照らしだした1冊。

本書の構成
第1章 「里山資本主義」の目指す世界
第2章 周防大島が“里山資本主義のふるさと”と呼ばれる理由
    ―20年間の地方再生ストーリー
第3章 人と地域と事業をつなぐ「プラットフォーム」
第4章 「ふるさと創生」から「地方創生」へ
    ―自治体はどう変わったか
第5章 フロントランナーとして注目される実践家たち
第6章 里山資本主義の新たな可能性
    藻谷浩介×御立尚資

(引用終了)
<本帯表紙、カバー表紙裏、帯裏表紙紹介文>

という内容で、「里山システムと国づくり」の項で紹介した『里山資本主義』の続編といった体裁。以下、第5章の実践家たちを紹介しておこう。

〇 地域の課題と資源を「生業」に変える
域外に流出した仕事をもう一度自分たちの手に 
赤城直人(一般社団法人アシタカ代表)岡山県真庭市
〇 顧客とのつながりを感じたい
六次産業の本当の意味
石野智恵(広島県倉橋島ちりめん網元石綿水産)
〇 地域資源を活かしたビジネスの先進地・西粟倉村で
  持続可能なコミュニティを実現する
  大島奈緒子(株式会社ようび ようび建築設計室室長)
〇 日本の水産業を救う
  女性起業家が巻き起こした六次産業化という革命
  坪内知佳(株式会社GHIBLI代表取締役)山口県萩市
〇 国産漆を救う活動を行政から民間へ
  松沢卓生(株式会社浄法寺漆産業代表取締役)岩手県

どの起業家たちも生き生きと活動している様子が清々しい。

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posted by 茂木賛 at 10:44 | Permalink | Comment(0) | 起業論

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