夜間飛行

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敬語システム

2020年07月21日 [ 言葉について ]@sanmotegiをフォローする

 「自粛警察」の項で紹介した『日本語びいき』清水由美著(中公文庫)という本は、日本語の特色がよく整理されている。イラストも楽しい。今回は、同書8章「日本語はあいまい? 非論理的?」から、丁寧語・尊敬語・謙譲語という日本語の「敬語システム」について見てみたい。

 著者はまず、日本語は省略が多いが、それは省略してもしっかり通じるシステムが備わっているからであって、不要なものを言わないですますのは経済的かつ合理的であると述べる。その上で、

(引用開始)

 だいたいが日本語は述語中心の言語です。中学校で英語を習い始めたとき、It’s fine today.とか、There’s a cat on the table.なんていうのが出てきて、「それは今日はいい天気だ」、「あそこにテーブルの上に猫がいる」などと訳してしまい、先生に直された人はいませんか? そのitは訳さなくていい、そのthereも放っておきなさい、と。
「天候のit」って何? この前の授業で「there=あそこ」って先生言ってたぢゃない。なのに、なんで?
 英語はこんなときにまで主語を要求する言語なのですね。形骸化した、形だけの主語です。私のニッポン的な頭からすると、そちらのほうがよっぽど非論理的に見えるのですけれども、とにかく主語が決まらないことには、動詞をどんな形にするかが決まらず、したがって文が作れない、という性質があるらしい。日本語とは根本的に文作りの「向き」が逆です。日本語はとにかく述語が大事で、主語なんかなくてもかなりのことがやっていけるようになっているのです。そしてそこにはいろいろと便利なしかけがあります。

(引用終了)
<同書 85−86ページ>

と書く。

 「日本語はとにかく述語が大事で、主語なんかなくてもかなりのことがやっていけるようになっているのです」という指摘は、このブログで提唱している
複眼主義の対比、

A Resource Planning−英語的発想−主格中心
a 脳(大脳新皮質)の働き−「公(Public)」
A 男性性=「空間重視」「所有原理」

B Process Technology−日本語的発想−環境中心
b 身体(大脳旧皮質及び脳幹)の働き−「私(Private)」
B 女性性=「時間重視」「関係原理」

と整合的だ。英語的発想は、主格(主語)が決まらないと先が展開できない(文が作れない)が、日本語的発想は環境(述語部分)が中心だから、主語がなくても先が展開できる。

 著者は、述語中心の日本語を支えるしかけの一つが「敬語システム」であるという。引用を続けよう。

(引用開始)

 主語の省略をささえる述語の強力なシステムの一つが、敬語です。
「お酒を召し上がりますか?」
 なんて聞かれた場合、その返事としては「ええ、飲みます」、「ええ、いただきます」、「ええ、召し上がりますよ」、「うん、飲む飲む」、ざっと四通りは考えられます。誰がお酒を「召し上がる」のかを瞬時に判断し、その上で適切な答えをこれまた瞬時に選んで、返す。
 判断の基準は何か。
 まずは、「ますか?」の部分です。いわゆるデス・マスは、丁寧語といういうもので、会話の相手を敬して使うのが基本です。「ますか?」が使われたということは、この質問者は自分と相手との関係をタメ口がきける関係ではない、と判断したことを表している。
 次が「召し上がり」の部分。これは尊敬語で、お酒を飲む動作主体、「飲む人」を尊敬していることを表現するために使われています。ここで「飲む人」の判断は二つ、出てくる。一つはここにいない誰か(尊敬すべき人)。そしてもう一つは会話の相手です。
 この二つの可能性から、正解をどう絞り込んでいくか。
 もしこれ以前の会話の中でここにいない誰かを全く話題にしていなかったとしたら、第一の可能性は消えます。唐突に第三者を話題にしようとするときにその人への言及を省略することは(いくら省略好きの日本語でも)、ありえないからです。聞かれた人は、ああ自分の飲酒傾向を聞かれているのだな、と思ってよろしい。
 逆に、すでに話題になっている人物があったとしたら、「飲む人」は、その話題の人物である可能性が大です。いずれの場合も、質問者が話題の人物なり会話の相手なりに対して尊敬語を使うイワレがあるかどうかが、重要な手がかりになります。
 このようにして動作主「飲む人」が誰かの判断がついたところで、答えを選ぶことになります。それが第三者であり、かつ質問者からも回答者からも尊敬すべき人物であれば、「召し上がりますよ」になる。回答者本人もしくはその身内であれば、「飲みます」になる。回答者のほうからも質問者を敬すべき人物だと考えていれば、一歩下がって謙譲語で「いただきます」とする。反対に、回答者が質問者より目上であり、その関係を自他共に遠慮なく認めていいと判断するなら、「飲む飲む」となる。

(引用終了)
<同書 86−88ページ>

いかがだろう、敬語システムの便利さがうまく整理されているのではないだろうか。さらに引用を続けよう。

(引用開始)

 いやはや、こうして並べてみると、すごい判断をすごいスピードでしているものだと感心してしまいますが、組み合わせはこれだけではありません。さらにたとえば「うん、召し上がるよ」なんていう答えもありえます。もしこんな答えが返ってきたとしたら、質問した人は、そうか、この人(回答者)は話題の第三者のことは尊敬しているけれど、会話の相手である自分のことは尊敬していないんだな、と知ることになるでしょう。
 丁寧語・尊敬語・謙譲語という敬語のシステムは、主語の省略をささえるだけでなく、会話の当事者たちや話題のそれぞれの人間関係(をそれぞれがどうとらえているか)を雄弁に語る手段でもあるのです。

(引用終了)
<同書 88ページ>

 この本には、これ以外にも日本語の特色がいろいろと書かれている。また機会があれば紹介したい。主語を省く会話については、「助詞の研究」の項などもお読みいただきたい。

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posted by 茂木賛 at 11:03 | Permalink | Comment(0) | 言葉について

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