このブログをお読みの方には耳新しい話ではないと思うが、新型コロナウイルスの流行に寄せ、「モノコト・シフト」の本質について整理しておきたい。
モノコト・シフトとは、20世紀の「大量モノ生産・輸送・消費システム」と人のgreed(過剰な財欲と名声欲)が生んだ、「行き過ぎた資本主義」(環境破壊、富の偏在化など)に対する反省として、また、科学の「還元主義的思考」によって生まれた“モノ信仰”の行き詰まりに対する新しい枠組みとして、(動きの見えない“モノ”よりも)動きのある“コト”を大切にする生き方・考え方への関心の高まりを指す。
20世紀、大量モノ生産・輸送・消費を可能にしたのは、遠くから運ばれる安い原材料と大きな組織だが、コトを大切にするこれからの時代を代表するのは、多品種少量生産、食品の地産地消、資源循環、新技術といった産業システムであり、それをけん引するのは、フレキシブルで、判断が早く、地域に密着したスモールビジネスである。先日「タネを育てる」の項でその最前線をみた。
21世紀初頭のいま、世界的に見て、モノコト・シフトは、進んでいる国・地域(先進地域)と、そうでない国・地域(後進地域)が混在している。人々のマインド・セットも、余計なモノを捨ててコトを大切にする生き方を選ぼうとする群と、まだモノに固執する群とに分かれている。生活必需品が行き渡るにつれて後者は次第に減っていく筈だが、過渡期現象として、モノを捨てないままにコトを楽しもうとする一群も発生する。古いマインド・セットのまま、新しい時代の波に乗ろうと考える人たちだ。
モノコト・シフトの本質は、分散であり、手作りであり、身の丈に合った経済活動なのだが、古いマインド・セットのまま、新しい時代の波に乗ろうとする人々は、大量生産・輸送・消費、大きな組織のなかでコトを楽しもうとする。従ってそれは都市集中型となる。
都市集中型のコトといえば、ポジティブな面では、オリンピックなどのスポーツイベント、大きなライブ・コンサートなど。ネガティブな面では、集団感染やmass shootingなど。ポジティブな面だけ選べれば良いが、コトの発生はそう上手くコントロールできない。すなわち、この古いマインドセットを変えない限り、人々は新型コロナウイルスのような集団感染の発生を常に警戒していなければならない。それはまた、中央集権による監視社会を受け入れることに繋がる。
21世紀の希望に満ちた社会は、以下のようなキーワードとともにあると思う。必要最小限の都市機能と豊かな自然、地方分権と食の地産地消、身の丈に合ったスモールビジネス、着眼大局・着手小局、広場と継続民主主義、Tiny House、Off Grid、YouTube、多品種少量生産、互恵的な経済、人的交流、朝市、長期滞在型の観光、再生可能エネルギー、新技術、資源循環、自立と共生、自由、多様な文化、Local Artなどなど。
コロナウイルスの流行を目の当たりにしたことによって、日本各地でさらにモノコト・シフトが加速するだろう。しかし一方、これまでの枠組で利益を得てきた集団は、中央集権による監視社会の方を指向するだろう。人類は今この二大潮流の鬩ぎ合いの場に立ち会っている。