夜間飛行

茂木賛からスモールビジネスを目指す人への熱いメッセージ


内因性の賦活 II

2020年02月28日 [ 非線形科学 ]@sanmotegiをフォローする

 「内因性の賦活」の話を続けたい。内因性の賦活が脳のLGSによってもたらされたとするならば、関連するテーマとして、

1.脳の個性
2.賦活の制御
3.脳と社会とのつながり方
4.脳機能の広がり

などが考えられる。順に見ていこう。

1.脳の個性

LGSの基本構造は熱対流によって作られるから、その機能は人によって特有の精度分布を持つ。人の才能や性格はそのバリエーションによる要素が強い。一方、学習はニューロン・ネットワークが担っている。言語や利き腕による脳の活性化領域の違い、LGS機能の習熟効果、奇形などによって、どのような脳の個性(多様性)が人に生じるのか。

2.賦活の制御

小脳における運動学習は、予定通りの結果が生まれるまで学習を促す方向で制御がなされる。内因性の賦活の場合、情報処理が予定通りの結果を生んだかどうかの判断は何に依存するのか。会話の場合は相手の納得、計画の場合は達成度、しかし目に見えるかたちで結論の出ないものは、外因性の賦活による中断、もしくはエネルギー切れによってしか終息しないのか。

3.脳と社会とのつながり方

以前「自由意志の役割」の項で、

(引用開始)

人間社会のおける「ゆらぎ」は、自然環境変化や気候変動、科学技術の発展、歴史や言葉の違い、貧富の差や社会ネットワーク・システムなどなど、それこそ無数の要因(コト)が複雑に絡み合って齎されるが、人の「自由意志」もそれらの要因の大切な一部である。とくに社会の多様性を保つために、人の「自由意志」の果たす役割は大きいと思う。

(引用終了)

と書いたが、社会の「ゆらぎ」としての自由意志と、LGSが持つ「ゆらぎ」との調和、そういう場の設計やdemocracyのあり方について考えたい。

4.脳機能の広がり

言語と音楽や色彩、直感、運動と思考といった、“mind”と“sensory”とのやり取りの諸相も興味深いテーマだ。それはまた脳の個性とどうつながるのか。

 今のところ以上だが引き続き考えたい。中田氏亡きあと、LGS仮説を踏まえこれらのテーマを追求する科学者が出ると良いのだが。

参考までに、中田力氏の著作を私の知る範囲で記しておこう。

@ 2001年9月 『脳の方程式 いち・たす・いち』(紀伊國屋書店)
A 2002年8月 『脳の方程式 ぷらす・あるふぁ』(紀伊國屋書店)
B 2002年11月 『天才は冬に生まれる』(光文社新書)
C 2003年7月 『アメリカ臨床医物語』(紀伊國屋書店)
D 2006年8月 『脳のなかの水分子』(紀伊國屋書店)
E 2010年12月 『穆如清風 複雑系と医学の原点』(日本医事新報社)
F 2012年2月 『古代史を科学する』(PHP新書)
G 2014年9月 『科学者が読み解く日本建国史』(PHP新書)
H 2018年11月 『神の遺伝子』(文春e-Books)

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posted by 茂木賛 at 12:19 | Permalink | Comment(0) | 非線形科学

現場のビジネス英語“mind & sensory”

2020年02月17日 [ 現場のビジネス英語シリーズ ]@sanmotegiをフォローする

 先回の「現場のビジネス英語」では、“out of sight, out of mind”について書いたが、今回はこの“mind”と、その対となる“sensory”について見てみたい。どうしてかというと、英会話などで、日本語の「こころ」という言葉を、どのように翻訳して相手に伝えたらよいのかを考えたいからである。

 まず“mind”から。辞書による定義は“the part of a person that makes it possible for him or her to think, feel emotions, and understand things”(Cambridge Dictionary)とある。「think, feel emotions, and understand things」だから、“mind”は、人の思考にかかわる脳の活動としてよいだろう。前回の「内因性の賦活」でいう人の「知性と自由意志」を担う部分。「理性」を担う部分といってもよい。

 それに対して“sensory”はどうか。辞書によると“connected with the physical senses of touch, smell, taste, hearing, and sight”(Cambridge Dictionary)とある。「physical senses」には、アフォーダンスでいう知覚システムの一つ基礎定的定位、自律神経系の興奮と安らぎ、さらに内臓の痛みなども含めてよいと思う。「感性」を担う部分である。

 思考にかかわる“mind”と、身体の働きにかかわる“sensory”。英語ではクリアーだが、日本語の「こころ」という言葉はどうだろう。たとえば十二世紀の歌人・西行に、

空になる
心は春の霞にて
世にあらじとも思ひ立つかな

という歌がある。『西行 魂の旅路』西澤美仁著(角川ソフィア文庫)によると、これは彼が出家を決意した時の歌で、現代語訳は「心が空に吸い込まれる感覚は、ちょうど春霞が立つのに似ていたので、同じ立つなら、私もこのまま世を遁れようと思い立ったのである」。「空に吸い込まれる感覚」の「心(こころ)」とは、感性の強い影響下にある言葉だ。「こころ」の英訳を調べると、

“mind”
“heart”
“spirit”

などとなっている場合が多い。“heart”は辞書によると“used to refer to a person’s character, or place within a person where feelings or emotions are considerd to come from”(Cambridge Dictionary)、“spirit”は“the way a person is feeling”(Cambridge Dictionary)といういことで、「こころ」という言葉は、“mind”の意味だけに収まり切らず、“sensory”に近い意味をも含有することがわかる。

 日本語の「こころ」は、“sensory”の強い影響下にある言語思考からくる。脳を身体機能と一体化して使うといってもよい。日本語、なかでも大和言葉にはそういう傾向が強くみられる。「こころ」「思い」「あこがれ」などなど。「脳と身体」などの項で述べてきたように、複眼主義では、日本語に特徴的な、“sensory”の強い影響下にある言語思考は、

A Resource Planning−英語的発想−主格中心
a 脳(大脳新皮質)の働き−「公(Public)」

B Process Technology−日本語的発想−環境中心
b 身体(大脳旧皮質及び脳幹)の働き−「私(Private)」

として、「身体の働き」の方に含めている。勿論「どちらかと云うと」ということだが。

 さて、英語の会話で「こころ」と言いたいときはどうしたらよいか。まず、自分が理性について話したいのか、感性に比重を置いて話したいのかを自問してみよう。理性についてなら“mind”を使えばよい。感性に比重を置きたいのならば、“heart”や“spirit”という言葉を選べばよいだろう。辞書にあるように、英語でも“feeling”(感情)や“emotion”(情動)は“heart”からくると思われていたわけだし、“gut feeling”や“heartbreak”といった日本語的発想に近い言い方もあるのだから。

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内因性の賦活

2020年02月10日 [ 非線形科学 ]@sanmotegiをフォローする

 以前「3つの石」の項で、地球層構造との類似において人の大脳皮質構造を想起し、「水の力」や「五欲について」の項で紹介した『脳の方程式 ぷらす・あるふぁ』中田力著(紀伊國屋書店)を再読したいと書いた。

 故中田氏(2018年逝去)の著書については、2008年に「脳について」の項で、『脳のなかの水分子』(紀伊國屋書店)に触れ、“脳にはニューロン・ネットワークの他にもう一つ高電子密度層があり、その仕組みが人の「内因性の賦活(自由意志や想像力、ひらめき)」を支えているという”と書いたのが最初だ。

 10年以上経ってしまったけれど、今回改めて『脳の方程式 ぷらす・あるふぁ』に沿って、この内因性の賦活について見てみたい。まず同書から引用する。

(引用開始)

 外界からの刺激に対応した脳の情報処理は、外因性の賦活(exgenerous activation)と呼ばれる。感覚器官から到達した信号から連鎖的に起こってくる脳活動という意味である。脳の活動が、すべて外からの刺激によってスタートする一連の現象であったとすれば、脳は、ある入力に反応して結果を生み出す自動制御装置として、けりがついてしまう。
 しかし、脳とはそれほど単純な装置ではない。

 人間は(おそらく、多くの動物も同様に)まったく外部からの刺激を受けない状態で、自発的な脳活動を開始する能力を持っている。
 思考である。
 誰でもが経験するように、深い思考は、むしろ、すべての刺激を断って、じっとしたままの状態の方が進めやすい。
 脳科学ではこのような賦活を内因性の賦活(endogeneous activation)と呼ぶ。外因性の感覚がまったく脳に届いていない状態で開始される、脳活動のことである。そして、この内因性の賦活がどのようにして開始されるかは、脳科学に残された最大の謎のひとつとされていた。たしかに、ニューロン絶対主義の古典的脳科学では、解けない謎である。

(引用終了)
<同書 82ページ(太字化省略)>

 小脳における運動学習は、小脳のプルキニエ細胞が担っているが、その制御は、細胞を一対一で発火させる登上繊維によってなされる。一方、大脳における学習は、ニューロン・ネットワークが担っているけれど、その制御は、高電子密度層と錐体細胞とによって形作られるLGS(と呼ばれる仕組み)によってなされるという。LGSは、小脳の登上繊維のように細胞を一対一で発火させるのではなく、熱放射によって複数の細胞を重み付けしながら発火させる。

 動物の運動は、不随意運動(自律神経系など)と随意運動とに分かれる。随意運動は、大脳前頭葉の運動野からの指令によって筋肉が動き、小脳はこの運動が正しく行われたかを調整・学習する。この場合、大脳の運動野が実践装置、小脳が制御装置である。

 大脳運動野からの運動指令は、大脳中心溝後方の情報処理と前頭前野での判断に基づいた、ニューロンの自家発火である。前頭前野はこの情報処理が正しく行われたかを調整・学習する。この場合、中心溝後方が実践装置、前頭前野が制御装置となる。

 運動野LGSに備わった自家発電能力。これが重要だ。その近傍にある前頭前野。ここから内因性の賦活が生まれた。どういうことか。『脳の方程式 ぷらす・あるふぁ』からふたたび引用しよう。

(引用開始)

 運動野が随意運動の高度化のなかで小脳との連携を固め、実践装置と制御装置との関係を作り上げる中、前頭前野はその関係をモデルとして中心溝後方の情報処理実践装置の制御装置として発達する(中略)。同時に、前頭葉運動野に備わった機能と類似の自家発電能力も踏襲することとなる。そこから生まれたものが、情報処理に関する内因性の賦活、つまりは、思考の過程である。

(引用終了)
<同書 84−85ページ>

動物は、随意運動をモデルとして、前頭前野のニューロン自家発火、すなわち思考能力を獲得したわけだ。

 ここまでは多くの動物に共通だが、人の前頭前野は他の動物よりも大きい。人において前頭前野の機能は高度化した。機能が高度であれば、情報処理と思考に高い能力が生まれる。すなわち知性と自由意志である。

 内因性の賦活=思考は、人において高度化し知性と自由意志を生んだ。知性と自由意志は、人が「理性を持ち、感情を抑え、他人を敬い、優しさを持った、責任感のある、決断力に富んだ、思考能力を持つ哺乳類」となることを可能にした。

 さて、このLGSという仕組み、重要なのは、構造的に「ゆらぎ」を内包していることである。細胞を一対一で発火させる小脳の運動制御はあまりゆらぎを持たないが、LGSは熱放射によって複数の細胞を重み付けしながら発火させるから、制御にゆらぎ(ある量の平均値からの変動)が生じる。中田氏は、ここから、知性には創造性(想像力やひらめき)が備わったという。人における内因性の賦活は、自由意志と創造性とを共に育んだのである。

 いかがだろう、複雑系としての脳科学。LGSの構造、形成されるしくみに興味のある方は、『脳の方程式 ぷらす・あるふぁ』をお読みいただきたい。その前編『脳の方程式 いち・たす・いち』中田力著(紀伊国屋書店)も併せて読むと、より理解が深まるだろう。最後に、研究途中(68歳)で亡くなった中田氏のご冥福を祈る。

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posted by 茂木賛 at 09:48 | Permalink | Comment(0) | 非線形科学

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