夜間飛行

茂木賛からスモールビジネスを目指す人への熱いメッセージ


日本列島の来歴

2019年07月29日 [ 非線形科学 ]@sanmotegiをフォローする

 前回「新しい統治正当性」の項で、日本のことを“4つのプレートがせめぎ合い、自然災害の多い列島”と表現したが、『フォッサマグナ』藤岡換太郎著(講談社ブルーバックス)によって、そのような日本列島の来歴を概観しよう。

 せめぎ合う4つのプレートとは、北海道と東北、関東が乗っている「北米プレート」、北陸、西日本が乗っている「ユーラシアプレート」、伊豆半島と伊豆諸島が乗っている「フィリッピン海プレート」、そして日本海溝の東側に位置する「太平洋プレート」である。

 海洋プレートである「太平洋プレート」は、西側にある大陸プレート「北米プレート」の下に潜り込もうとしている。同じく海洋プレートの「フィリッピン海プレート」は、東側でユーラシアプレートの下に、北側で「北米プレート」の下にも潜り込もうとしている。「ユーラシアプレート」の日本海部分は、「北米プレート」の下に潜り込もうとしている。「フィリッピン海プレート」と「太平洋プレート」は、海洋プレート同士として互いに押し合って(引きずり込み合って)いる。房総半島沖では「太平洋プレート」と「フィリッピン海プレート」、「北米プレート」の3つが一点で交わっている(三重会合点/海溝三重点)。これがせめぎ合いの様相だ。

 尚、「プレートテクトニクス」の項で参照した『日本列島の下では何が起きているのか』中島淳一著(講談社ブルーバックス)では、新しい理解として、北海道と東北、関東が乗っているのは「オホーツクプレート」(北米プレートの一部とされていた)、北陸、西日本が乗っているのは「アムールプレート」(ユーラシアプレートの一部とされていた)としているが、ここでは『フォッサマグナ』の記載に従う。

 フォッサマグナとは、「ユーラシアプレート」と「北米プレート」との境界に位置する巨大地溝を指す。現在は八ヶ岳や富士山など数々の火山や堆積物に覆われている。特徴的なのは、「フィリッピン海プレート」の伊豆半島(伊豆・小笠原弧)がそこに衝突したことで、地溝の北側と南側でだいぶ様相が違っていることらしい。藤岡氏は、世界で唯一の地形といわれるこのフォッサマグナがなぜできたのかを考えることで、日本列島の来歴を推理する。

 「3つの石」の項で参照した『三つの石で地球がわかる』(講談社ブルーバックス)でもそうだが、藤岡氏の本は、疑問に対して(充分と思える根拠に基づいて)大胆な仮説を展開するところが面白い。ここでのキーワードは「プルームテクトニクス」と「オラーコジン説」の二つ。

 プルームテクトニクスとは、スーパープルームの上昇と下降とを指す。プルームとはマントルの流れ、スーパープルームとは、メソスフィアとアセノスフィアの間を上昇あるいは下降する大規模なプルームのこと。オラーコジン説とは、平坦な地形にできる大規模な溝状の断裂(オラーコジン)はしばしば三つの方向に分かれ、それらは多くの場合1点に集まる点(三重会合点/三重点)で二つのよく発達した「腕」と未発達の第3の「腕」となることを指す。

 藤岡氏の仮説による日本列島(とフォッサマグナ)の来歴は次の通り。

(ステップ1)2000万年前頃、南太平洋で火山活動を引き起こしたスーパープルームの一部が北上しユーラシア大陸の東端に達した。

(ステップ2)その後、プルームの上昇によってユーラシア大陸の東端の大地が3方向に割れた。

(ステップ3)1500万年前頃にかけて、3本の割れ目のうち、発達した2本が日本海の拡大に寄与しながら「逆くの字形」の日本列島をつくった。もう一本が北部フォッサマグナとなった。

(ステップ4)ほぼ同じ頃、北部フォッサマグナに伊豆・小笠原弧が衝突、南部フォッサマグナが形成された。

(ステップ5)北にはプレートを生産するオラーコジンが、南にはプレートを引きずり込む房総半島沖の三重会合点があったことで、フォッサマグナはバランスよくその形を保った。その後数々の火山や堆積物が一帯を覆った。

 日本列島の生成は、『日本列島の下では何が起きているのか』では、「日本列島は、大陸から離れた日本列島の北半分と南半分とがそれぞれ(北半分は反時計回り・南半分は時計回りに)回転しながら太平洋側に押し出され、そこに伊豆半島が衝突したことで合体・形成された」と解説されている。しかしそれだけでは、そもそもなぜ列島部分が大陸から離れたのか、なぜそのまま押し出され続けた(日本海開裂が進んだ)のか、なぜフォッサマグナという地形がそのまま残ったのか、までは分からない。藤岡氏の仮説は、フォッサマグナの北部と南部の様相の違いや、スーパープルーム、オラーコジン説などに着目しながら、これらの疑問に答えようとする。論点に房総半島沖の三重会合点まで包含していて、なかなか興味深い。

(引用開始)

 アジアの端でオラーコジンができて、その先端がリフトとして日本海溝に達する一方で、伊豆・小笠原弧が北部フォッサマグナの南端に衝突し、南海トラフが海溝となって海溝三重点できた――この一連のイベントが、すべて15Maにいっぺんに起きたと私は想像しています。
 3本のリフトが交わるオラーコジンは、これも「三重点」ということができます。オラーコジンのリフトは大地を裂き、背孤を陥没させましたが、そこからはマグマが噴き出され、マグマはプレートとなります。一方の房総沖海溝三重点は、プレートを引きずり込んでしまう海溝が交わった三重点です。すると、北にはプレートを生産する三重点ができ、南にはプレートをなくしてしまう三重点ができたことになります。この両者が日本列島をはさんで南北に向かい合っているというのは、世界的に見てもかなり怪しげな配列です(図6−8)。宇宙で言えば、爆発を起こした超新星のすぐ近くに、ブラックホールがあるようなものです。
 この二つの三重点がほぼ同時に形成されたことが、フォッサマグナの存続において不可欠だったのではないかと私は考えます。1本のリフトでつながった両者は、いわば車輪でつながった車の両輪の関係になったのではないでしょうか。
 海溝三重点は、フィリッピン海溝プレートとともに次々に南から押し寄せる火山島の衝突にも位置をほとんど変えずに存在しつづけ、フォッサマグナというジオメトリーを変えないように、コントロールしてきたのではないかと考えるのです。もし海溝三重点の位置が大きく変動していたら、フォッサマグナという地形は保持されていなかったのではないかと。
 もっと言うならば、オラーコジンと海溝三重点を結ぶリフトの存在こそが、フォッサマグナなのです。このような配列が15Maにできたことは、まったく再現不可能な、特異な地球科学現象であると思われます。フォッサマグナに相当する地形が世界でほかで見つけられないのも、そう考えると頷けるのではないでしょうか。
 日本海の拡大は200万年ほどでマグマがなくなって終わりましたが、今度は日本海そのものが太平洋プレートとともに日本列島の下へと沈み込みを開始しました。しかし、日本列島の反対側には海溝三重点という巨大なアンカー(錨)が存在しているため、日本列島そのものが形を変えていくようなことはありませんでした。そのかわり、とくに東北地方には強い東西方向の圧縮が起り、その結果、フォッサマグナでは赤石山脈が隆起し、さらに北アルプスや中央アルプスのような高い山脈ができていったのです。海溝三重点の位置が変わらないかぎり、こうした東西圧縮はこれからも続くでしょう。

(引用終了)
<同書 ページ193−195(リフト=大地の裂け目、1Ma=100万年前、図は省略した)>

いかがだろう。このような“4つのプレートがせめぎ合い、自然災害の多い列島”に暮らす我々は、他国の人々にも増して、複雑系地球科学・非線形科学に精通していなければならない筈だ。それを国家統治の教義そのものにするのは理に適っていると思う。これからも研究の深化に注目したい。

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posted by 茂木賛 at 14:07 | Permalink | Comment(0) | 非線形科学

新しい統治正当性

2019年07月15日 [ 公と私論 ]@sanmotegiをフォローする

 「神道について」、「戦国史の表と裏」、「幕末史の表と裏」でみてきたように、秀吉から明治維新に至る列島の統治正当性は「神国日本」にあった。日本は天皇を祖とする神国であるという統治の正当化。

 西洋のキリスト教、ユダヤ教、中東のイスラム教、中国の儒教といった宗教は、それぞれ行動規範としての「教義」を持つ。それが国家統治における法の基となる。しかし神道は、独自の教義を持たない。それ故に、信徒の行動に歯止めがかからず、国家統治の思想としては危険極まりない。戦前の日本はそのために無謀な戦争に突入した。

 政治学者の白井聡氏は、『国体論 菊と星条旗』(集英社新書)において、戦後のアメリカによる列島統治正当化は、明治維新の枠組みの流用だったと論じている。この本は2018年4月に出版された。同年6月の新聞書評を引用しよう。

(引用開始)

対米従属なぜ 大胆な全体像

 日本はなぜかくも対米従属的なのか。トランプ大統領の機嫌を取ることにやっきな安倍政権の動きをみるたびに誰しも思うこの疑問を、著者は「国体」という意外な言葉で説明する。
 一般的に国体とは、戦前日本の特殊な国家体制を意味する。天皇は父として臣民を慈しんでいる。だから臣民は喜んで天皇に奉仕しなければならない。このように天皇と臣民は家族であり、その関係は単なる支配・服従ではないとされた。
 著者は、この構造を戦後の日米関係にも見いだす。アメリカは慈父として日本を守ってくれている。だから日本は「思いやり予算」などで答えなければならない。戦後の日本は、天皇の上にアメリカを戴くかたちで国家システムを再編し、存続させたというのである。
 この体制では、日本の自立など望みがたい。「戦後の国体」に忠実であるほど、立憲主義を破壊してでも、沖縄を足蹴にしてでも、今上天皇を蔑ろにしてでも、アメリカに付き従わなければならないからだ。その果てに待つものが破滅であろうと、献身的な従属は止まらない。
 本書は、日本の戦前と戦後を「国体の歴史」としてパラレルに捉え直し、その形成から崩壊までを大胆に論じている。多くの読者を魅了しているのも、複雑な近代史を独創的かつ図式的に整理し、「なぜ対米従属が止められないのか」との疑問に「それは国体だからだ」と明確に答えているからだろう。
 もちろん明快さの裏には強引さが隠れている。だが、昨今の歴史研究は実証を重んずるあまり、しばしば細部にこだわり全体像の提示を軽んじてきた。その反動が「大東亜戦争は聖戦だった」式の大づかみすぎる歴史観の流行ではなかったか。
 読者は見取り図を求めている。その欲望をむげにしてはならない。今日の課題は、陰謀論に警戒しつつも、重箱の隅いじりに陥らず、全体像の向上を図ることだろう。本書の受容も、その文脈に置くと生産的である。

(引用終了)
<朝日新聞 6/2/2018(フリガナ省略)>

 著者は戦前と戦後の「国体の歴史」をそれぞれ三つの段階、

<戦前>

「天皇の国民」:明治維新から明治天皇没(1912年)まで。
「天皇なき国民」:大正政変から男子普通選挙法(1925年)まで。
「国民の天皇」:三・一五事件から敗戦(1945年)まで。

<戦後>

「アメリカの日本」:敗戦から連続企業爆破事件(1975年)まで。
「アメリカなき日本」:ロッキード事件からバブル崩壊(1993年)まで。
「日本のアメリカ」:阪神淡路大震災から今上天皇「お言葉」(2016年)まで。

に分け、パラレルに展開する国民の意識変遷を概観する。その上で著者は、今上天皇の「お言葉」は、「アメリカを事実上天皇と仰ぐ戦後の国体において日本人は霊的一体性を本当に保つことができるのか」との問いかけであるとし、歴史の転換を画するものでありうるという。ただし、

(引用開始)

「お言葉」が歴史の転換を画するものでありうるということは、その可能性を持つということ、言い換えれば、潜在的にそうであるにすぎない。その潜在性・可能性を現実態に転嫁することが出来るのは、民衆の力だけである。
 民主主義とは、その力の発動に与えられた名前である。

(引用終了)
<同書340ページ> 

として論考を終える。

 戦前の天皇を頂点とする国体は、「神国日本」というフィクションの上に成り立っていた。戦後のアメリカを頂点とする国体も、彼らが導入した象徴天皇制によって、相変わらず同じフィクションの上に成り立っている。「神国日本」という神輿の担い手は、「歴史の表と裏」で示唆したように、戦前から今に至るまで基本的に変わっていない。この認識がまず重要だ。

 歴史の転換を迎える日本は、新しい統治正当性を「神国日本」ではなく、別のところに求めるべきだと思う。といって、排他的な一神教ではないもの。私は「父性の系譜」の項で、

〇 中央政治(外交・防衛・交易)は預治思想による集権化
〇 地方政治(産業・開拓・利害調整)は天道思想による分権化
〇 文化政策(宗教・芸術)は政治とは切り離して自由化

*「預治思想」=「天命を預かり治める」
*「天道思想」=「自然を敬う考え方」

〇 列島の統治思想では天命=天道とする
〇 天道=自然現象=民意
〇 民意を上手く掬い上げるために代議制を導入する
〇 代議制のベースは家(イエ)とする

という近世のあらまほしき統治思想の骨格は、今の時代でも通用するのではないかと書いた。その理由は、天道思想の自然を敬う考え方は、20世紀後半に西洋の合理主義的科学から派生してきた、自然をダイナミックに捉える「非線形科学」をその教義とすることが可能だからだ。「天命=天道=自然=民意」を至高として、「自然を敬う考え方=非線形科学」を教義とする国家統治。4つのプレートがせめぎ合い、自然災害の多い列島に相応しい統治思想ではなかろうか。この件、項を改めてさらに考えを展開してみたい。

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posted by 茂木賛 at 10:50 | Permalink | Comment(0) | 公と私論

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