夜間飛行

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12の土

2018年11月19日 [ 非線形科学 ]@sanmotegiをフォローする

 「3つの石」の次は「12の土」。地球上の石が3種類(橄欖岩、玄武岩、花崗岩)に分類できるとすると、土は全部で12種類に分けられるという。

1. 永久凍土
2. 砂漠土
3. チェルノーゼム(黒土)
4. ポドソル
5. 粘土集積土壌
6. 未熟土
7. 若手土壌
8. 泥炭土
9. ひび割れ粘土質土壌
10.黒ぼく土
11.強風化赤黄色土
12.オキシソル

前項で<土への興味>として挙げた『土 地球最後のナゾ』藤井一至著(光文社新書)にそうある。尚、石が土になるのは水や酸素や生物の働きによる。

 本の副題は「100億人を養う土壌を求めて」。まず新聞書評によって内容を紹介しよう。

(引用開始)

 ずいぶん前、「土壌とは微生物などの生物活動がある土をいう」と書いてあるのを読んだ。土の生産性を考える土壌学の基本だそうで、これが専門ということだなあと感心した。ではコンクリートに覆われた都会の土は土壌と呼べるのかと、余計なことも考えた。そんな土地は食料生産に縁がないから、土壌学の対象外だろう。でも、気になる。
 私たちは日々、土壌に接している。それに毎日の食物では日本中、いや世界中の土壌にお世話になっているのだが、土壌について私たち消費者はよく知らないし、一般向けの本も少ない。この本は若い土壌学者による、なかなか貴重な二冊目だ。愛用のスコップを振るって撮ってきた世界の土壌のカラー写真、わかりやすい土壌の科学の解説がある。土壌の進化や風化による変化と喪失、生産性など、私たちが知らずにいたことが満載の、それでいて軽快に読める土壌案内である。食について関心を持たれる方も含め、ぜひ一読を。
 土壌の世界は、広くて深い。身近な黒い土をスプーンに一杯とると、その中には五十億のバクテリアと、つなげれば十キロメートルもの長さになる菌糸(主にカビやキノコなどの菌類が形成)が活動しているそうだ。彼らは、地上から延びてくる植物の根と栄養のやり取りをし、どちらも利益を得て生きている。地球生物が陸に上がってからの四億年で築いてきた、複雑な共生関係だ。だから土壌には、まだわからないことが多い。
 その土壌は、岩石の風化と生物が生み出す。地質学的環境、気候、地表の古さ、表面の植物と地価の腐食、ミミズやジリスも加わっていろいろな土壌が生まれる仕組みが、実に面白い。
 いっぽうで、地球上には十二種類の土しかないそうだ。地域でいろいろに呼ばれていても、成り立ちや腐食・粘土成分などの分析をまとめると、十二種類になる。著者は十二種全部を現地で見てやろうと、研究費をやりくりしながら果敢に世界を飛び回った。
 この本のテーマは、世界の土壌の紹介とともに、いずれ百億人になるという世界人口を養える土壌はどれか、という問いかけでもある。いま七十億の地球人の多くを食べさせているのはチェルノーゼムと呼ばれる最も肥沃な土壌で、ウクライナを中心とした穀倉地帯が有名。アメリカ・カナダに拡がる広大なプレーリーや南米のなどにも分布するが、残念ながら日本にはない。その多くは大規模農地・牧草地で、日本の私たちにもパンと肉を提供している。だが収量は停滞し、風害による損失も大きい。ほかの土壌ではどうか? 著者は一つ一つ検討してゆくが、明確な答えはない。
 気になるのは日本の土だが、黒い日本の土は「黒ぼく土」と呼ばれ、かなり日本限定だ。黒いから生産性が高いかと思ったら、農業用としては「不良土」だそうだ。頻繁に火山灰が降り裏山から新しい土壌が流れ込んで、土地としては常に新しい。それでいて植物の旺盛な働きで酸性度が高く、また栄養は豊富なのに栽培作物には吸収しにくい。ただ水耕農法の場合は、田の水がうまく栄養を供給する。裏山と水が豊富な日本には良いことずくめだが、その水田も後継者不足などで危うい。
 著者は「スコップ一本でできる研究」にこだわり、百億人の職を支える土壌を求め国際委員会のメンバーにもなって活躍し、軽いノリで書く。まさに新しい土壌学者なのだろう。コンパクトながら、日々の食卓を支える土壌について、国際的視野で考えさせてくれる本。

(引用終了)
<毎日新聞 9/2/2018(フリガナ省略)>

 12の土の相関関係を見る。石が土になる始まりは「6.未熟土」。それが極寒地では「1.永久凍土」、乾燥すると「2.砂漠土」、水浸しになると「8.泥炭土」、玄武岩・粘土が多いと「9・ひび割れ粘土質土壌」、火山灰が降り積もると「10.黒ぼく土」、腐食が蓄積すると「3.チェルノーゼム(黒土)」となる。「チェルノーゼム(黒土)」に粘土が移入すると「5.粘土集積土壌」。「未熟土」が風化すると「7.若手土壌」となる。それに砂質酸性が加わると「4.ポドソル」、「若手土壌」がさらに風化し粘土移入が起こると「11.強風化赤黄色土」、風化して鉄分が多いと「12.オキシソル」となる。同書51ページに、これらの相関が、横軸に<乾燥(草原)>→<湿潤(森林)>、縦軸に<寒冷>→<温暖(熱帯)>をとった表に図示されている。12種類の土が相手だから、「3つの石」のときと同じように話が分かり易い。35ページにはそれぞれの土の写真もある。

 さらに、地球規模の土壌地図と各種の統計が勉強になる。地球の捉え方が深まる。例えば、肥沃な土壌と人口分布とのミスマッチ。

(引用開始)

 肥沃な土壌は、そう多くないということだ。地球にある12種類の土のうちで単純に肥沃と呼べる土はチェルノーゼムと粘土集積土壌、ひび割れ粘土質土壌くらいだ。そして、これらの土は局在している。
 作物のタネとは違い、土は融通が利かない。運ぶには重すぎるし、増やすこともできない。そう簡単に土の性質を変えることもできない。隣の国によい土があるからといって、簡単に引っ越すわけにもいかない。仮に良い土があったとしても、それだけではだめだ。多くの人を養うにはよい土地が広い面積に分布することが必要だ。水も要る。そこに適した作物も違う。そして、トラクターも肥料も農薬もお金がかかる。水と土に恵まれた惑星といえど、100億人を養う土を見つけることはそう簡単なことではないのだ。

(引用終了)
<同書 136ページ>

 日本の土壌と農業の課題。新聞書評にもあるように、日本の黒ぼく土は酸性度が高く栄養(リン酸)が栽培作物に吸収しにくいという。しかし著者は次のように書く。

(引用開始)

 乾燥地のチェルノーゼムの灌漑農業、オーストラリアの砂漠土では、水が欠乏しやすい。インドネシアの熱帯雨林には水はあるが、リンが欠乏しやすい。水とリンのどちらかが足りない。日本の土壌には、潜在的にこの二つがそろっている。
 現状では、黒ぼく土に眠るリンを取り出すよりも、リン鉱石からつくったリン酸肥料をまいた方が安い。棚田でコメを作るより輸入した方が手っ取り早い。しかし、世界人口が100億人へと突入し、水やリン酸資源の供給が不安定化する時代がやって来る。リン酸肥料が高くなれば、大量のリン酸の黒ぼく土はもうかる土になり可能性もある。水の豊かさは土を酸性にしてしまう問題をはらんでいるが、それは石灰肥料をまけば改良できる。石灰肥料の普及は、そのセールスマンだった宮沢賢治の悲願でもあった。鉱物資源の乏しい日本にあって石灰岩だけは自給可能だ。水もリンも石灰もある黒ぼく土の未来は、見た目ほど暗くない。
 国内総生産(GDP)が伸び悩んでいる国の中で、耕作放棄地だけは順調に増加している。とくに日本で最も肥沃な沖積土は、同時に工業立地や居住地としても人気の高い場所であり、都市化に飲み込まれ続けている。再び農地として利用しようとすると土壌汚染の修復に数百億円を要すると聞き、初めて事の重大さを思い知ることになる。現在失われようとしている農地土壌の能力を維持するというのは、攻めの農業という言葉ほど華やかさはないかもしれない。それでも、本来必要のないはずの土壌修復への税金投入を節約したり、潜在的に国際競争力の高い産業を持つことも可能となる。肥沃な土は私たちの足元にもある。

(引用終了)
<同書 206−207ページ>

 日本の伝統的な棚田は灌漑水を取り込むことで黒ぼく土の欠点を利点に変えてきた。

(引用開始)

 まず酸性土壌の問題だが、灌漑水を取り込むことで、カルシウムなどの栄養分が補給される(図88)。すると、粘土にくっついていた酸性物質(水素イオンやアルミニウムイオン)が中和され、土が中性になる。水を張ることでリンの問題も解決する。水を張った土の中は還元的(嫌気的、ドブ臭くなる状態)になり、鉄さび粘土が水に溶け土は青灰色(Fe2+イオンの色)になる。鉄が溶けた証拠だ。すると、鉄さび粘土に拘束されていたリン酸イオンが解放される。イネはこれを吸収することで、リンに困ることなく成長できる。日本の土が抱える二つの問題が、水田土壌ではなくなるのだ。

(引用終了)
<同書 197−198(図は省略)>

歴史上に名を残す武将たちの多くは水田事業のリーダーでもあったという。

 最後に12の土の特徴を覚えるのに丁度よい文章を引用しておこう(ただしここで「黒ぼく土」は「火山灰土壌」になっている)。

(引用開始)

 平均的な日本人の土との関りを再現しよう(図92)。朝食は「チェルノーゼム」で育てた小麦パンに北欧の「ポドソル」でとれたブルーベリー・ジャム。「粘土集積土壌」の飼料で育てた牛からとれるミルク。お昼は、アジアの熱帯雨林と「強風化赤黄色土」が育む香辛料(ウコン)を豊富に使ったカレーライスと「火山灰土壌」でとれた野菜サラダ。おやつに「砂漠土」のナツメヤシの入ったオタフクソースをかけたたこ焼きを頬張る。夜は「未熟土」でとれたおコメ、黄砂(「若手土壌」)に育まれた太平洋のマグロのお刺身。シベリアの「永久凍土」地帯からやってくる冬将軍に怯えながら、「ひび割れ粘土質土壌」で生産されたコットンを「泥炭土」の化石である石炭で青く青く染めたジーンズをはき、石炭で発電した電気ストーブで温まる。そして、「オキシソル」を原材料にしたスマホを大切そうに握りしめている。

(引用終了)
<同書 210(図は省略、太字は鍵括弧に入れた)>

おやつにたこ焼きはちょっと食べすぎかな。オキシソルは純度の高いアルミニウムの原材料になるという。

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posted by 茂木賛 at 09:28 | Permalink | Comment(0) | 非線形科学

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