『ルポ 地域再生』志子田徹著(イースト新書)という良い本を読んだ。著者は北海道新聞の記者。副題には「なぜヨーロッパのまちは元気なのか?」とある。まず本帯表紙とカバー表紙裏の紹介文を引用しよう。
(引用開始)
人口増だけがすべてじゃない。地域に自信と誇りを取り戻せ!
生き残りの鍵は「成熟」にある。
「何もないまち」では終わらせない――
欧州の地方を歩くと、日本に比べてずっと元気に見えた。なぜなのか、何か日本の地域再生のヒントになることを見つけたいと思って、欧州のあちこちを巡りながら取材を重ねた。当事者の声を聞いて、各地に共通して見えたことは、危機的な状況に陥ったまちほど、危機の本質に向き合ってそこからの脱却に真剣に取り組み、結果的に強くなっていたことだ。人口減少、観光客減、空き家の増加、地方切り捨て、経済危機、農業の衰退、旧産炭地の疲弊……。それらの危機に立ち向かってきた現場の人たちの原動力と取り組みに迫る。
(引用終了)
目次を見ると、
<はじめに>
第一章 まちを変える、ひとが変える/スペイン サン・セバスチャン
第二章 逆境がまちを強くする/イタリア キャンティ
第三章 環境と経済は両立できる/スウェーデン ベクショー
第四章 資源は足元に眠っている/アイスランド
第五章 「自身」と「誇り」を持つために/フランス ノール・パ・ド・カレ
第六章 視察では見えないことがある/オランダ ワーヘニンゲン
第七章 地域のことは地域で決めた/イギリス スコットランド
<おわりに>
ということで、スペインからイギリスまで、丁寧な取材で地域再生の現場が描かれる。スペインのサン・セバスチャンは、前々回「自然・食・観光」の項で登場した「レストランバスク」のオーナーシェフ深谷宏治さんが働いていた街。イタリアのキャンティは、以前「小さな町」の項で紹介した『スローシティ』島村奈津著(光文社新書)にも登場する。
この本で分かるのは、地域再生を担う人々の自立心の強さと、気負いの無さだ。著者は<おわりに>のなかで、欧州では「まちづくり」や「市民運動」への関わり方がごく普通の日常的な活動の延長にあるように感じたと書き、
(引用開始)
欧州のまちがなぜ元気なのか。その理由はこうしたところにあるのだと思う。数字には表れない「豊かさ」が、そこにはある。担い手たちは多様で、開かれており、スコットランドのリンゼイさんのように、とくに女性が伸び伸びと活躍している様子が印象に残る。皆が、言葉の本当の意味の「voluntary(ボランタリー)=自発的行為」として地域の活動に取り組んでいる。誰からの押し付けでも命令でもない。自分たちで考え、決定し、行動する。それを支える地方分権がある。こうしたことが当たり前の社会であれば、「豊さ」を実感できるはずだ。
(引用終了)
<同書 253ページ>
と続ける。日本の地域再生活動でもこうした心構えが大切だろう。自立心と継続する力。それと勿論活動領域の選択、理念の設定と共有。同書の新聞書評も引用しておこう。
(引用開始)
著者はまず、食いしん坊である。最初に訪れたのはスペイン北部バスク地方にあるサン・セバスチャン市。旧市街には居酒屋「バル」が実に約220軒も軒を連ねるという。登場する地元のおつまみ「ピンチョス」の多種多彩さ。美食倶楽部「ソシエダ・ガストロノミカ」(会員制で男性限定!)への潜入談では生唾を飲み込んでしまう。
この人口19万人ほどの地方都市がなぜ、「美食世界一のまち」と呼ばれるようになったのか。キーとなるのは「地方分権」。フランコ独裁が終焉し「抑圧されていた地域独自の文化や言語は解放され、個性が花開いた」と著者は指摘する。同市では食により、民族のアイデンティティーさえも守られているのだ。
ブロック紙のロンドン特派員時代の取材が元となった。限界集落(伊)、再生可能エネルギー(スウェーデン、アイスランド)、旧産炭地(仏)なども歩き、同様の問題を抱える地元・北海道友対比していく。英国のEU離脱に象徴される「欧州の没落」は不可避なのか。「欧州の日常」を描いたという本書の中から、日本人が学ぶべき「欧州の強さ」を見つけたい。
(引用終了)
<毎日新聞 4/1/2018(フリガナ省略)>
この本でもう一つ興味深かったのは、第七章にあるスコットランドやスペイン北東部カタルーニャの独立とEUとの関係だ。スコットランドもカタルーニャもまだイギリス、スペインから独立したわけではないが、もし独立したら、両国ともEUに加盟することを想定しているという。
(引用開始)
スコットランドやカタルーニャで独立運動が盛り上がった背景には共通する部分もある。EUの存在だ。最近でこそ「EU統合は失敗した」といった言説もみられるが、EUが欧州の安定に貢献してきた点は見逃せない。加盟国間では経済や貿易だけでなく環境や食品の安全などあらゆる分野でルールの統一化が進んでいる。スコットランドやカタルーニャは、独立後もEUに加盟していることを想定している。EUの共通ルールを取り入れていれば、独立後の混乱が少ないと考えるからだ。
(引用終了)
<同書 245ページ>
以前「ヒト・モノ・カネの複合統治 II」の項でみた、
「閉じた地域帝国」:EUのような陸の広域経済連携
「地方政府」:ローカルな閉じた定常経済圏
という二層の統治システム。しかし、このような動きとは別にイギリスのEU離脱がある。
nation:文化や言語、宗教や歴史を共有する人の集団(民族・国民)
state:その集団の居場所と機構
という二つにおいて、nationの分裂圧力とそれに対応するstateのあり方、欧州ではこれからもしばらく模索が続くようだ。