『知ってはいけない』矢部宏治著(講談社現代新書)を読んだ。副題は「隠された日本支配の構造」。矢部氏の本にはこれまで、『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』、『日本はなぜ、「戦争ができる国」になったのか』(両著とも集英社インターナショナル)などあるが、当書はそれらの内容をかみ砕いて整理したもの。章ごとに四コマ漫画などもあって読みやすい。
『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』(2014年10月29日発行)については、「国家理念の実現」、<日本の女子力と父性について>、<平岡公威の冒険 5>、<日本の戦後の父性不在>、「歴史の表と裏」などで論じてきた。『日本はなぜ、「戦争ができる国」になったのか』(2016年5月31日発行)については、<根村才一の憂鬱>の中で触れたことがある。
著者が「サンフランシスコ・システム」と呼ぶ米軍による日本支配は、「国際憲章」→「サンフランシスコ平和条約」→「安保法体系」・「吉田・アチソン交換公文」→「日米合同委員会」・「日米安全保障協議委員会(2+2)」→「基地権密約」・「裁判権密約」・「指揮権密約」といった法的構造を持つ(本書254−255ページ)。これらを(新たな国家理念に基づいて)一つ一つ変更してゆかなければ日本国(state)の独立はないわけだが、その際重要なのは、朝鮮戦争の終結(平和条約締結)であると著者は示唆する。
1950年に北朝鮮と韓国との間の紛争として始まった朝鮮戦争は、1953年に休戦したが、未だ平和条約は結ばれていない。休戦協定は、参戦した中国と北朝鮮連合軍対、韓国側として参戦した米軍主体の国連軍との間で結ばれている。詳細は本書をお読みいただきたいが、サンフランシスコ平和条約は1951年に署名(1952年から発効)されており、「サンフランシスコ・システム」は、中朝連合軍と国連軍とが戦争状態にある前提で設計・構築されている。朝鮮戦争平和条約が結ばれれば、サンフランシスコ・システムにも見直す契機が訪れる筈。
父性(国家統治能力)不在の今の政府では、(朝鮮戦争の)平和条約締結に向けた外交など望むべくもないが、条約締結後に、どのような法的構造によって国の独立と安全保障とを担保するか、我々が研究することはできる。矢部氏も「あとがき」の中で、
(引用開始)
急いで調べる必要があるのは、他国のケーススタディです。
〇大国と従属関係にあった国が、どうやって不平等条約を解消したのか。
〇アメリカの軍事支配を受けていた国が、どうやってそこから脱却したのか。
〇自国の独裁政権を倒した人たちは、そのときどのような戦略を立てていたのか。
これからは、そうした「解決策を探す旅」が始まります。
(引用終了)
<同書 258ページ>
と書いておられる。この本で関心を持つ人が増えると良いと思う。
日本国の独立があろうがなかろうが日々の生活は進んでいく。しかし、連合国軍占領時代(1951年)に生まれた身としては、日本独立の道筋を見極めたい気持ちがある。朝鮮戦争の平和条約締結に向けた外交戦略も含め、これからも研究を続けたい。