夜間飛行

茂木賛からスモールビジネスを目指す人への熱いメッセージ


サンフランシスコ・システム

2017年09月27日 [ 公と私論 ]@sanmotegiをフォローする

 『知ってはいけない』矢部宏治著(講談社現代新書)を読んだ。副題は「隠された日本支配の構造」。矢部氏の本にはこれまで、『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』、『日本はなぜ、「戦争ができる国」になったのか』(両著とも集英社インターナショナル)などあるが、当書はそれらの内容をかみ砕いて整理したもの。章ごとに四コマ漫画などもあって読みやすい。

 『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』(2014年10月29日発行)については、「国家理念の実現」、<日本の女子力と父性について>、<平岡公威の冒険 5>、<日本の戦後の父性不在>、「歴史の表と裏」などで論じてきた。『日本はなぜ、「戦争ができる国」になったのか』(2016年5月31日発行)については、<根村才一の憂鬱>の中で触れたことがある。

 著者が「サンフランシスコ・システム」と呼ぶ米軍による日本支配は、「国際憲章」→「サンフランシスコ平和条約」→「安保法体系」・「吉田・アチソン交換公文」→「日米合同委員会」・「日米安全保障協議委員会(2+2)」→「基地権密約」・「裁判権密約」・「指揮権密約」といった法的構造を持つ(本書254−255ページ)。これらを(新たな国家理念に基づいて)一つ一つ変更してゆかなければ日本国(state)の独立はないわけだが、その際重要なのは、朝鮮戦争の終結(平和条約締結)であると著者は示唆する。

 1950年に北朝鮮と韓国との間の紛争として始まった朝鮮戦争は、1953年に休戦したが、未だ平和条約は結ばれていない。休戦協定は、参戦した中国と北朝鮮連合軍対、韓国側として参戦した米軍主体の国連軍との間で結ばれている。詳細は本書をお読みいただきたいが、サンフランシスコ平和条約は1951年に署名(1952年から発効)されており、「サンフランシスコ・システム」は、中朝連合軍と国連軍とが戦争状態にある前提で設計・構築されている。朝鮮戦争平和条約が結ばれれば、サンフランシスコ・システムにも見直す契機が訪れる筈。

 父性(国家統治能力)不在の今の政府では、(朝鮮戦争の)平和条約締結に向けた外交など望むべくもないが、条約締結後に、どのような法的構造によって国の独立と安全保障とを担保するか、我々が研究することはできる。矢部氏も「あとがき」の中で、

(引用開始)

急いで調べる必要があるのは、他国のケーススタディです。

〇大国と従属関係にあった国が、どうやって不平等条約を解消したのか。
〇アメリカの軍事支配を受けていた国が、どうやってそこから脱却したのか。
〇自国の独裁政権を倒した人たちは、そのときどのような戦略を立てていたのか。

これからは、そうした「解決策を探す旅」が始まります。

(引用終了)
<同書 258ページ>

と書いておられる。この本で関心を持つ人が増えると良いと思う。

 日本国の独立があろうがなかろうが日々の生活は進んでいく。しかし、連合国軍占領時代(1951年)に生まれた身としては、日本独立の道筋を見極めたい気持ちがある。朝鮮戦争の平和条約締結に向けた外交戦略も含め、これからも研究を続けたい。

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対抗要件と成立要件

2017年09月23日 [ 街づくり ]@sanmotegiをフォローする

 『人口減少時代の土地問題』吉原祥子著(中公新書)という本を一気に読んだ。副題には“「所有者不明化」と相続、空き家、制度のゆくえ”とある。まず本帯のキャッチコピーとカバー裏の紹介文とを引用しよう。

(引用開始)

空き家、相続放棄の問題が、農村から都市へ拡大している
持ち主がわからない土地が九州の面積を超えている――。

日本の私有地の約20%で、所有者がわからない――。持ち主の居所や生死が判明しない土地の「所有者不明化」。この問題が農村から都市に広がっている。空き家、耕作放棄地問題の本質であり、人口増前提だった日本の土地制度の矛盾の露呈だ。過疎化、面倒な手続き、地価の下落による相続放棄、国・自治体の受け取り拒否などで急増している。本書はその実情から、相続・登記など問題の根源、行政の解決断念の実態までを描く。

(引用終了)

 このブログでは、空き家問題についていろいろと論じてきたけれど、その根底には「土地問題」があると感じていた。「建築自由と建築不自由」で書いたように、日本の憲法の土地所有権は、“土地は本来基本的に自由なのであって、これが制約を受けるのは、その利用が他者を害する時だけであるとし、この他者への侵害を「公共の福祉」として捉え直し、これを法的に構成した”ものだからである。「土地問題」に切り込んだ本書は、だからとても重要かつタイムリーな企画といえるだろう。新聞の書評を紹介しよう。

(引用開始)

有効利用へ実態解明と問題提起

 きっかけは、外資の森林買い占めだった。北海道庁は土地売買の事前届け出を義務づけ、登記簿上の土地所有者4千人余に通知した。だが、その45%が宛先不明で戻ってくる。こうした土地の「所有者不明化」問題はいまや全国に広がり、面積にして九州を上回る。土地はちゃんと登記され、国や自治体が管理しているはずという著者の思い込みは覆される。「なぜこんなことに」という疑問から、この研究プロジェクトが始まった。
 背後には、土地の相続登記が任意だという事情がある。登記手続きは煩雑で、費用もかかる。しかも、登記しなくても不都合はない。これでは、放置される。世代交代が進めば法定相続人がねずみ算的に増え、所有者の関心は低下し、自分の森林の場所や境界すら分からなくなる。
 これは今、林業の現場で大問題となっている。荒れた森林に手を入れたくとも、所有者が不明で手が付けられないのだ。また、震災復興事業をはじめ全国で様々な事業が、土地の権利関係の確定に膨大な時間と労力を要するため、遅れたり暗礁に乗り上げたりしている。まずは所有者の確定を、次に、基盤となる土地情報システムの整備が急務、と著者は強調する。
 しかし根底には、人口減少で土地需要が縮小し、大都市圏を除いて、もはや地価が上がらないという構造要因がある。土地は有利な資産ではなくなり、登記の必要性は低下した。にもかかわらず、所有者不明で有効活用できない土地・不動産は、今後さらに拡大する見込みだ。
 こうなれば、農林業の集約化や空き家活用によるまちづくりなどが、所有権の壁にぶつかって進まなくなる。本書は「強すぎる所有権」ゆえ、土地・不動産の有効利用が進まない実態を浮かび上がらせた。これは究極的に、「所有権と利用権の分離」というラディカルな思考にもつながっていく重要な問題提起だ。(諸富徹)

(引用終了)
<朝日新聞 9/3/2017>

 著者は、土地利用について欧米と日本を比較し次のように述べる。日本の土地問題は、明治政府がフランス民法を手本にしたことに遡るらしい。

(引用開始)

 欧米を見ると、厳格な利用規制などによって個人の土地所有権に一定の制約を課している国が多い。
 土地には本来、その用途たる使用目的があるもので、土地所有者はどこまでも自由に利用し、または利用しないことができるものではない、という考え方が基本にある。
 明治時代に日本が民法を制定する上で手本としたフランスは、土地の使用、収益、処分のいすれについても所有権者個人の自由であるという、いわゆる絶対的所有権の考え方をとっている。
 しかし、土地需要が逼迫した高度成長期の1950年代以降、個人の所有権に一定の制限を課し、必要な公的利用が円滑に進むよう制度改正が重ねられてきているという。

(引用終了)
<同書 124ページ(フリガナ省略)>

フランス法は「不動産などの売買による権利の変動は、当事者間の契約によって成立する。ただし、第三者に権利を主張するためには登記を必要とする」という考え方で、こうした登記の性質は「対抗要件」と呼ばれる。これは、登記をしないと権利の変動そのものが成立しないとするドイツ法の考え方とは異なる(こちらは「成立要件」と呼ばれる)。この「対抗要件」の考え方が、日本の憲法における「建築自由」の基にあるわけだ。

 フランスは制度改正を進めているが日本はそのまま。土地の利用よりも所有が優先する日本のような状況は、現在、先進諸外国では類を見ないものだと著者はいう。土地問題の解決は、国家経営の重要課題の一つである。それがなおざりにされ続けている。<日本の戦後の父性不在>がここにも顕現していると思う。

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posted by 茂木賛 at 10:06 | Permalink | Comment(0) | 街づくり

江戸時代のベストセラー

2017年09月18日 [ アート&レジャー ]@sanmotegiをフォローする

 必要あって江戸時代に関する文献を各種読んでいる。最近読んだ『江戸のベストセラー』清水惠三郎著(洋泉社)という本は、江戸時代に流行った書物12冊を取り上げて、著者の略歴や本の内容、出版の背景や出版社の事情などを記したもの。その12冊を目次順(出版年順)にみると、

『嵯峨本』角倉素庵 <慶長9(1604)年頃>
『塵劫記』吉田光由 <寛永4(1627)年頃>
『好色一代男』井原西鶴 <天和2(1682)年>
『武監』松会三四郎 <貞享2(1685)年>
『曽根崎心中』近松門左衛門 <元禄16(1703)年>
『養生訓』貝原益軒 <正徳3(1731)年>
『解体新書』杉田玄白 <安永3(1774)年>
『吉原細見』蔦屋重三郎 <天明3(1783)年>
『東海道中膝栗毛』十返舎一九 <享和2(1803)年>
『南総里見八犬伝』滝沢馬琴 <文化11〜天保12(1814〜41)年>
『東海道四谷怪談』鶴屋南北 <文政8(1825)年>
『江戸繁昌記』寺門静軒 <天保3(1832)年>

ということで、有名どころが並んでいる。

 著者の清水氏は雑誌プレジデントの元編集長。ジャーナリスティックな目で江戸時代の出版活動を概観しているところがユニーク。本帯表紙には、“武家名鑑、算術指南書、健康読本、江戸タウンガイド、ファンタジー小説、ホラー小説、生活実用書、遊郭風俗ガイド……、発禁処分続出!現代に通じるヒットの秘密!!”とある。

 それぞれ章の巻頭には、『嵯峨本』:洛中有数の素封家にして知識人が創り出した「豪華本」への憧憬、『塵劫記』:技術大国ニッポンへの道を拓いた和算入門のバイブル、『好色一代男』:稀代の好色男を狂言回しに江戸の享楽を活写したベストセラーの嚆矢、といったキャッチが掲げられている。『武監』:幕府体制の実用書、代表的な江戸土産でもあった江戸の武家名鑑、『養生訓』:読み継がれること300年!「健康書」の超ロングセラーはいかにして生まれたか、『解体新書』:近代医学の曙となった江戸のプロジェクトX、『ターヘル=アナトミヤ』翻訳、『東海道中膝栗毛』:衆道の凸凹コンビが繰り広げる珍道中が大ヒットした理由、『南総里見八犬伝』:終われないのは江戸の昔も同じ!元祖ドラゴンボールの憂鬱、『東海道四谷怪談』:200年の時空を超えて、「平成の夏」を戦慄させる江戸のモダン・ホラー、『江戸繁昌記』:貧乏儒者のコンプレックスが生んだ漢文専門書のベストセラー、と続く。他の文献と併せ江戸社会を知る手掛かりとしたい。

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posted by 茂木賛 at 09:47 | Permalink | Comment(0) | アート&レジャー

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