19世紀後半の象徴主義絵画についても触れておきたい。象徴主義について、『西洋美術史』高階秀爾監修(美術出版社)から引用する。
(引用開始)
象徴主義は、19世紀後半の(印象主義と並ぶ)もう一つの重要な芸術の流れである。科学と機械万能の時代の実利的なブルジョワ精神、芸術の卑俗化を嫌悪した文学者や芸術家は、人間存在とその運命に関する深い苦悩、精神性への欲求から、内的な思考や精神の状態、夢の世界などを表現しようとした。それゆえに象徴主義は、主題や表現手段の上できわめて多様な形を取った国際的な潮流となった。
イギリスに現れたラファエル前派は、最初の象徴主義の運動の一つにかぞえられる。
(引用終了)
<同書 147ページ(括弧内は引用者による補注)>
先日取り上げた「ラファエル前派の絵画」は、象徴主義の表れのひとつでもあったわけだ。
象徴主義絵画といえば、去年(2015年)4月、ブリジストン美術館の(新築工事のために長期休館する直前に開かれた)「ベスト・オブ・ザ・ベスト」展で、ギュスターヴ・モローの『化粧』という小品(33.0cm x 19.3cm)を観た。
(引用開始)
あでやかな東方風の装いの女性が、柱あるいは衝立に物憂げにもたれかかっています。その身にまとった鮮やかな色彩の豪奢な織物と美しい宝石類は、彼女が権力者の寵愛を受ける立場であることを想起させます。非常に繊細なデッサン、そして水彩絵具の即興的な性質を生かし、色彩の濃淡や、質感を描き分けて完成させた魅力溢れる作品です。モローは旧約聖書の時代と空間、すなわち古代とオリエントから着想を得て多くの作品を描きました。堅固で暗い建築空間の中に、人物の衣装や装身具のあざやかで豊な色彩を合わせ、固さと柔らかさ、あるいは明暗などの絶妙なコントラストを表すことによって、ドラマティックで演劇性に富んだ絵画を制作しました。
(引用終了)
<カタログ「ブリジストン美術館名作選」より>
休館となったブリジストン美術館の良さは、19世紀以降のフランスを中心とした西洋近代美術が系統だって揃えられていることだった。印象派、ポスト印象派、フォービズム、キュビズム、抽象画などなど。残念だが、数年後、新たに生まれ変わった姿が見られるということなので期待して待つとしよう。
ギュスターヴ・モローについて『西洋美術史』には次のようにある。
(引用開始)
モローは聖書や異教的な神話を題材にしながら抽象的な概念を描き出した画家で、「オルフェウスの首を抱くトラキアの娘」《IX-21》は彼のデビュー時代の代表作である。モローが作り出した驚くべきイメージ、とりわけサロメのような邪悪で魅惑的な女性像は、ビアズリー《IX-22》、クリムトなどの画家や世紀末の文学、音楽全般に大きな影響を与えた。
(引用終了)
<同書 149ページ(図版省略)>
オーブリー・ビアズリーの作品は、『百花深処』<エレガントな女性美>の項で紹介した「ザ・ビューティフル 英国唯美主義 1860−1900」で、『クライマックス―サロメ』(素描)など7点を観ることができた。『クライマックス―サロメ』と他の2点は、作家オスカー・ワイルドの戯曲本『サロメ』の挿絵として描かれたもので、それらは、今でも1880年代のデカダンスの縮図と見做されているという。