夜間飛行

茂木賛からスモールビジネスを目指す人への熱いメッセージ


モノコト・シフトの研究 III

2015年10月27日 [ 非線形科学 ]@sanmotegiをフォローする

 前回、前々回と続けたモノコト・シフトの研究、今回は、古くからある思想哲学と、複眼主義的対比との関連を纏めておきたい。まずは西洋思想から。その前に複眼主義の対比を再掲しておく。

A Resource Planning−英語的発想−主格中心
a 脳(大脳新皮質)の働き−「公(Public)」−「都市」
A 男性性=「空間重視」「所有原理」

B Process Technology−日本語的発想−環境中心
b 身体(大脳旧皮質及び脳幹)の働き−「私(Private)」−「自然」
B 女性性=「時間重視」「関係原理」

A、a系:デジタル回路思考主体
世界をモノ(凍結した時空)の集積体としてみる(線形科学)

B、b系:アナログ回路思考主体
世界をコト(動きのある時空)の入れ子構造としてみる(非線形科学)

 さて、西洋思想における複眼主義的対比は、ギリシャのプラトンとアリストテレスに遡る。『構造主義科学論の冒険』池田清彦著(講談社学術文庫)から引用しよう。

(引用開始)

 プラトンはイデアがそれ自体としてある、と考えました。ですからプラトンにとってイデアは不変で不滅の同一性であり、時間を超越して存在するものです。もちろんイデアは私の観念として存在するのであって、外部世界に自存するわけではありません。イデア説が霊魂の不滅という考え方を導くのもむべなるかなと思われます。
 これに対し、アリストテレスは現象や個物を第一義的な存在と考えたため、イデア自体が自存することを認めませんでした。アリストテレスにとっては、イデアというものがもしあったとしても、それは個物の中に入っているものでなければならなかったのです。

(引用終了)
<同書 138−139ページより>

プラトンのイデアこそ、脳(大脳新皮質)がつくり出した観念の代表例といえるだろう。一方、アリストテレスはあくまでも身体性に拘った。

A:プラトン
B:アリストテレス

という関連を指適することができる。

 東洋思想における複眼主義的対比は、中国の孔子と老子に求められる。『日経おとなのOFF』という雑誌(2015年8月号)に掲載された僧侶・玄侑宗久氏のインタビュー記事から表の一部を引用する。

(引用開始)

● 孔子:「仁」「礼」で国を治める方法を説いた

儒教の祖。社会秩序を保つための「礼」、そのシステムを支える精神規範としての「仁」を軸に、私利を捨てて責務を果たせと説いた。

● 老子:孔子の人為を批判し「無為」を説いた

万物の本体は「道」だと説く道教の祖。自然と一体化する「無為自然」を旨とし、人間の努力・向上を肯定する孔子を批判した。

(引用終了)
<同書 56−57ページより>

孔子は「公」を重んずる都市の哲学であり、老子は「無為」を旨とする自然の哲学である。

A:孔子
B:老子

という関連を指適することができる。

 モノコト・シフトの背景には、こういった、西洋と東洋、それぞれ古くからある思想哲学の対比、均衡(バランス)がある。

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モノコト・シフトの研究 II 

2015年10月20日 [ 非線形科学 ]@sanmotegiをフォローする

 前回に引き続きモノコト・シフトの研究を続けたい。21世紀の主流の考え方は、コト=「固有の時空」を大切に考えるということだった。ただし誤解のないように付け加えておくが、これは今後モノがなくなるという話ではない。大量生産が終わるわけでもない。その辺りについては「これからのモノづくり」の項を参照していただきたい。

 複眼主義の対比も再掲しておこう。

A Resource Planning−英語的発想−主格中心
a 脳(大脳新皮質)の働き−「公(Public)」−「都市」
A 男性性=「空間重視」「所有原理」

B Process Technology−日本語的発想−環境中心
b 身体(大脳旧皮質及び脳幹)の働き−「私(Private)」−「自然」
B 女性性=「時間重視」「関係原理」

A、a系:デジタル回路思考主体
世界をモノ(凍結した時空)の集積体としてみる(線形科学)

B、b系:アナログ回路思考主体
世界をコト(動きのある時空)の入れ子構造としてみる(非線形科学)

勿論、複眼主義の要諦「どちらかというと」という但し書き付きである。

 この対比からも分かるように、「固有の時空」を大切に考えるということは、事象(matter)を脳(大脳新皮質)で考えるのではなく、身体(大脳旧皮質及び脳幹)で考える、覚えるということだ。何事も、上達するにはまずそれを好きになることだという。リラックスするには温泉にでも浸かってのんびり体を休めると良い。大一番の勝負に勝つためには逆に場(固有時空)に飲まれないようにしなければならない。スポーツ選手は練習によって技を身体に憶えこませる。

 脳は事象をモノ化する。身体は事象をコト化する。以前「脳腸バランス」の項で『脳はバカ、腸はかしこい』藤田紘一郎著(三五館)という本を紹介したが、脳は事象をモノ化してしまうから単純で、腸は事象をコト化するから複雑な栄養素を消化できるということなのだろう。

 ここで大切なのは、身体で考える、覚える、感じる、消化するということは、自分の固有時空が、対象の固有時空と同期・共鳴するということだ。同期現象は、非線形科学の代表例である。「相転位と同期現象」、「同期現象」ほか、カテゴリ「非線形科学」の諸項をお読みいただきたい。

 時空はある程度持続しなければまわりに影響を与えられない。「継続は力なり」という。それが好影響を与えるものであれば、自分の身体は健やかであり続けることができる。広々とした空間、素敵な友人、自由な環境、明るい窓、良い空気、美味しい水、華やかな香り、美しい景色などなど。それは、自律神経を通して脳にも好影響を与える。そうでなければ逆に健康を害する。脳にも悪影響を与える。そう考えると、モノコト・シフト時代、大切な固有時空には、

● ある程度持続する
● まわりに好影響を与える

といった二つの特徴を抽出することができるだろう。

 当り前のことのようだが、この二つの条件を満たす“コト”はそう多くない。食排、運動、仕事、読書、恋愛、気象、我々自身とそのまわりでは無数の“コト”が日々起っている。そしてまた消滅している。そのなかで、この二つの特徴を有する時空を選んで身近に接すれば、自身が健康になり、自分もまた人や社会に好影響を与えることができるだろう。人間関係も好転するに違いない。お店の経営でも、この二つに留意すれば繁栄間違いなしの筈だ。

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モノコト・シフトの研究

2015年10月13日 [ 非線形科学 ]@sanmotegiをフォローする

 このブログでは、21世紀はモノコト・シフトの時代だと書いている。モノコト・シフトとは、「“モノからコトへ”のパラダイム・シフト」の略で、二十世紀の大量生産システムと人の過剰な財欲による「行き過ぎた資本主義」への反省として、また、科学の還元主義的思考による「モノ信仰」の行き詰まりに対する新しい枠組みとして生まれた、(動きの見えないモノよりも)動きのあるコトを大切にする生き方、考え方への関心の高まりを指す。最近では「観光業について」や前回の「里海とはなにか」などの項でこの説を引用した。今回は一度原論的なところへ戻り、ある事象(matter)を“モノ”として見るか“コト”として見るか、その違いについて考えてみたい。

 たとえば「人」をどう見るか。「人」を“モノ”としてみるのは、人口比率とか頭数など、人を「数」として捉える思考法である。一方、「人」を“コト”としてみるのは、○○さんの生涯とか隣のXXさんなど、人を「生命」として捉える思考法である。このブログでは複眼主義と称して、

A Resource Planning−英語的発想−主格中心
a 脳(大脳新皮質)の働き−「公(Public)」−「都市」
A 男性性=「空間重視」「所有原理」

B Process Technology−日本語的発想−環境中心
b 身体(大脳旧皮質及び脳幹)の働き−「私(Private)」−「自然」
B 女性性=「時間重視」「関係原理」

という対比を論じているが、前者はAと親和性が強く、後者はBと親和性が強い。このことは以前「デジタル回路とアナログ回路」の項で措定した、

A、a系:デジタル回路思考主体
世界をモノ(凍結した時空)の集積体としてみる(線形科学)

B、b系:アナログ回路思考主体
世界をコト(動きのある時空)の入れ子構造としてみる(非線形科学)

という対比と整合する。

 都市においては、「人」を数として扱うことで、インフラの設計などが可能になる。自然(人間同士)においては、「人」を生命体として捉えることで、活き活きとした活動が生まれる。健全な社会のためには、AとB、両者のバランスの取れた見方、考え方が必要になるのだが、20世紀は西洋近代思想が世界を席巻し時代であり、先進国を中心として、見方、考え方がかなりAに偏った社会になってしまった。今はその反動として、見方、考え方がBに偏重してきたわけだ。スローフード、シンプル・ライフ、サステイナビリティー、再生可能エネルギー、シェアリング・エコノミー、里山、里海、庭園都市などなど。

 地球がもっとresilient(強復元力的)であったならば、人々はまだAに偏重し続けたかもしれない。だがそのままでは環境が持たないことが分かってきた。このことが大きい。今の時点では勿論、Bの重要性に気付いた人々と、そうでない人々は混在している。また、都市の一部には、利権がらみで意図的にA偏重社会の持続を画策する人々もいる。「三つの宿啞」の項で述べたところのgreedを持つ人々だ。

 たとえば「石」をどう見るか。「石」を“コト”としてみるのは、地球物理学者か鉱石愛好家くらいなもので、たいていの人は「石」を“モノ”としてみるだろう。「石」も長い年月が経てば少しずつ崩壊する。だから寿命はある。しかし普通は誰も石の寿命など考慮しない。寿命とは「固有の時空」の持続だから、「石」を“モノ”としてみるのは、その固有時空を考慮の外に置くということである。それを「凍結した時空」として扱うということである。逆に、地球物理学者や鉱石愛好家が「石」を“コト”としてみるのは、その固有時空を大切に考えるからである。

 Bの考え方は、総じて「固有の時空」を大切に扱う。世界をコト(動きのある時空)の入れ子構造としてみるからだ。ある事象を“モノ”としてみるか“コト”としてみるか、その違いの背景には、この「時空の捉え方」の違いがあると思う。Bの考え方が主流になるということは、自然科学の分野でも大きな地殻変動が起きつつあるということだ。生態学の変動については「里海とはなにか」の項で触れた。時空の捉え方については以前「複眼主義の時間論」で述べた。併せてお読みいただきたい。

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里海とはなにか

2015年10月06日 [ 起業論 ]@sanmotegiをフォローする

 「里海」という耳新しい言葉がある。『里海資本主義』井上恭介/NHK「里海」取材班共著(角川新書)という本のタイトルになっている。新聞紹介文を引用しよう。

(引用開始)

 海の健康を保持し、より豊かにするメカニズムが<里海の思想>だ。それは水質悪化で悲鳴をあげていた瀬戸内海の再生のために、猟師や過疎の島の住人たちによる取り組みから始まった。自然と対話し、適切に手を加え、本来の命のサイクルを取り戻すにはどうすればよいのか。市民に身近な里山・里海の拓(ひら)く未来を展望し、生命の無限の可能性を考える。

(引用終了)
<東京新聞 9/13/2015>

ということで、どうやら「里山」と対になるコンセプトのようだ。「里山システムと国づくり II」などの項で紹介した『里山資本主義』(角川oneテーマ21)の共著者、藻谷浩介氏が本書の解説文を書いている。以下、藻谷氏の解説を引用しながら、「里海の思想」に迫ってみたい。まず里海と里山とはどこが違うのか。

(引用開始)

 そもそも「里海」とは何か。「人間の暮らしの営みの中で多年の間、多用に利用されていながら、逆にそのことによって自然の循環・再生が保たれ、しかも生物多様性が増しているような海」のことであろうと、筆者はこの本を読んで理解した。(中略)
 そのような「里海」と、「里山」は似たようなものなのか、あるいは何か決定的に違うのか。「里山」も、「人間の暮らしの営みの中で多年の間、多用に利用されていながら、逆にそのことによって自然の循環・再生が保たれ、しかも生物多様性が増しているような樹林地・農用地」であると理解できるが、違うのは、「里山」は無数に存在可能な「入り口」であり、「里海」は一つしかない「ゴール」であるということだ。

(引用開始)
<同書211−212ページ>

里山は入り口であり、里海はゴール。このブログでは「流域思想」(山岳と海洋とを繋ぐ河川を中心にその流域を一つの纏まりとして考える発想)を提唱しているが、「里海の思想」はこの流域思想(もしくは流域思考)と親和性のある考え方のようだ。読んでいて納得することが多かった。

 このブログではまた、

A Resource Planning−英語的発想−主格中心
B Process Technology−日本語的発想−環境中心

という対比を掲げ、日本語的発想は自然環境破壊に対して強いはずだと述べてきた(「自然の捉え方」やカテゴリ「言葉について」の各項参照)。環境破壊が進む21世紀の世界を救うのは、日本語的発想というわけだ。この里海の思想も日本語的発想が基になっているという。藻谷氏の解説引用を続けよう。


(引用開始)

 この解説の序盤に書いたとおり、「里海」というのは、「人間の暮らしの営みの中で多年の間、多用に利用されていながら、逆にそのことによって自然の循環・再生が保たれ、しかも生物多様性が増しているような海」である。だがこのような発想は、本書に書かれているように、欧米の自然科学者の間に最初は広範な反発を呼んだという。彼らは、「自然に均衡や多様性をもたらすのは自然であって、人間ではない」という、自然を裁定者とした「一神教的」発想に囚われており、「人為も自然の中に均衡や多様性を生むことができる」という「人間も八百万の神の端くれ」というような発想を理解できなかったのだ。しかしそこは自然科学者の集団、客観的に計測され検証された証拠があれば、考えを改めざるを得ない。時を経て、いまや「SATOUMI」は「SATOYAMA」と並んで世界の生態学者の常用句となった。
 「人間も自然の中の一部であり、人為も自然の循環の中の一要素と位置付けて評価できる場合がある、だから人間にできる努力をあきらめてはいけない」という、一神教的な発想から言えば革命的な日本発の考え方が、少しずつ生態学の世界を変えていっているのである。

(引用開始)
<同書 222−223ページ>

これからの生態学には日本語的発想が欠かせなくなってくる筈だ。

 このブログではさらに、21世紀はモノよりも動きのあるコトを大切に考える「モノコト・シフト時代」であり、これからは経済三層構造、

「コト経済」

a: 生命の営みそのもの
b: それ以外、人と外部との相互作用全般

「モノ経済」

a: 生活必需品
b: それ以外、商品の交通全般

「マネー経済」

a: 社会にモノを循環させる潤滑剤
b: 利潤を生み出す会計システム

において、特にa領域(生命の営み、生活必需品、モノの循環)への求心力と、「コト経済」(a、b両領域)に対する親近感が増すと考えてきた。藻谷氏の解説をさらに引用する。

(引用開始)

 『里山資本主義』を学ぶことは、「金融緩和」に代表されるような怪しい「唯一神」への丸投げをやめ、社会の中での再生・循環・均衡の回復に向けて自分にも何かできることはないかと考える画期となる。元祖『資本論』は、「神の見えざる手」の絶対化を押しとどめ、資本主義社会を是正する大きな原動力となったが、「労働者のよる自己決定」を新たな「唯一神」と祭り上げるイデオロギーを生むことにもなって、流血の二○世紀にさらなる状況悪化をもたらした面もあった。しかしこの『里山資本主義』は、何か新しい「唯一神」を掲げるのではなく、八百万の神のささやかな力の結集に信を置くものである。
 一つ一つは微力な主体の相互作用だけが、均衡を回復する道筋である。そのことを理解していれば、あなたも微力な存在の一つとして、そのプロセスに恐る恐る関与してよい。まさに、新たな唯一神を掲げ押し付けるのではない、「しなやかな二一世紀の資本論」がここにある。

(引用開始)
<同書 225ページ>

人々の微力な主体の相互作用(コト)の連なりが「しなやかな二一世紀」をつくる。「里海の思想」はそういう未来の可能性を拓く考え方だ。皆さんも是非本書を手に取って里海、里山、流域の可能性に気付いていただきたい。

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posted by 茂木賛 at 13:17 | Permalink | Comment(0) | 起業論

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