夜間飛行

茂木賛からスモールビジネスを目指す人への熱いメッセージ


環境中心の日本語

2015年08月25日 [ 言葉について ]@sanmotegiをフォローする

 先日新聞に「個性的な言葉」と題した、日本語教師(52歳)の投稿が掲載されていた。

(引用開始)

 かつて私は約三年にわたり中国の江南、浙江、広東省にある三つの大学で、日本語や日本文化を教えていました。
 どこの大学でも必ず中国人学生に受ける日本語があります。それは、そば屋で客が注文する時の「私はキツネです」「僕はタヌキです」。日本人なら、「私はキツネを注文します」の省略と分かりますが、中国語にはこのような表現方法がないため、日本語は面白いと感じるようです。
 一般的に、日本人は文法をあまり重んじないように見て取れます。一方で、人と物が同化するような特有の言語感覚や表現の豊かさは、独自の特色ある国民性を表しています。世界では、よく日本語は曖昧だといわれていますが、かなり情緒的で個性的だとも思うのです。
 他者とのコミュニケーションをする上で、一番身近なのが言葉です。私は五十年余り付き合ってきましたが、ことばの世界は広く深く、言葉はとても不思議な存在です。

(引用終了)
<東京新聞 7/6/2015>

 複眼主義では、

A Resource Planning−英語的発想−主格中心
B Process Technology−日本語的発想−環境中心

という対比を論じている。この「私はキツネ」「僕はタヌキ」という表現方法こそ、Bの日本語的発想の典型例である。何故か。この言い方は、言葉の省略というよりも、そば屋のテーブル(を囲む仲間)という場所・環境を中心に、そこにおける自分の取り分を「キツネ」あるいは「タヌキ」、と捉える発想なのである。中心は、あくまでテーブとそれを囲む仲間だ。

 同じことは、接客文化の違いとして捉えることもできる。『新・観光立国論』デービッド・アトキンソン著(東洋経済新報社)に次のような箇所がある。

(引用開始)

 また、個人的に驚いたのは、日本のレストランのスタッフには、どの客が何を注文したのか覚えていない人が多いことです。たとえば、5人くらいで店に行くと、料理をテーブルに運んできたスタッフは「○○のお客さま」と注文を読み上げて、客に手を上げさせます。場合によってですが、どうも確認の意味でもないことが多いようです。これは驚きでした。海外の多くでは、テーブルを担当しているスタッフは誰がどの料理を注文したのかを頭に入れて、何も言わずに正しく注文した人の前におくのが基本中の基本ですが、日本ではまったく違うということに驚く外国人は多いのです。

(引用終了)
<同書 118−119ページ>

 日本人は環境(テーブルとそれを囲む仲間)中心に考える。料理を運んできたスタッフはどの料理をテーブルのどこに置くか、客はどの料理がどこに置かれるかが問題で、その際、誰が何を注文したかは中心的課題ではない。だから、客の方が手を挙げて料理の位置を示すことに心理的抵抗がない。配膳プロセスにはむしろ積極的に協力しようとする人の方が多いのではないか。Process Technologyとはそういうプロセスへの積極的な協力姿勢・技術を指す。

 日本(語)人は何事もまず環境中心に考える。普通の生活においても、個人よりも社会(というよりも世間)中心に発想する。だから人(世間)に迷惑が掛かることを極端に恐れる。上下関係や先輩・後輩関係ばかりに特に目がいく。それが他の言語との際立った違いである。

この問題について、これまでも「議論のための日本語」「議論のための日本語 II」などを書いてきた。併せてお読みいただければ嬉しい。

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posted by 茂木賛 at 09:34 | Permalink | Comment(0) | 言葉について

里山を造る

2015年08月18日 [ 街づくり ]@sanmotegiをフォローする

 前回「庭園を造る」の項で造園家中谷氏の本を紹介したが、今回は『今森光彦の心地いい里山暮らし12ヶ月』今森光彦著(世界文化社)という楽しい本について書きたい。まず新聞の湯川豊氏の書評を引用しよう。

(引用開始)

自然の豊かさを知り、学びなおす

 タイトルのある本扉をめくると、次の見開きは、二枚の写真。右頁では、長靴をはき頭にバンダナを巻いた今森光彦氏が地面にはうようにして庭仕事をしている。左頁は、部屋の中、琵琶湖中島で見つけたという、形のいい石の上に線香が柔らかな煙をあげている。ともに、熱心に見入ってしまう。
 この本は、ある里山に暮らす今森氏(と家族)の、一年の暮らしぶりの記録である。ある里山というのが、今森氏が二十数年をかけてつくりあげた、約千坪の土地。琵琶湖の西岸、比叡山のすそ野にひろがる仰木地区がその場所だ。今森氏はこの土地を得て、その頃すでに失われつつあった里山の原形のようなものをつくろうと発心し、長い時間をかけてそれを実現したのである。
 昆虫写真が専門、名エッセイストでもある今森氏は、日本中の里山を歩きまわって、TVなどで紹介しているが、彼にはよって立つ場所があったのだと、理解できる。自分で苦労して里山をつくり、その場所を「オーレリアンの庭」と名づけて住んだ。オーレリアンとは、ギリシャ語で黄金を意味し、転じて蝶を愛する人を指す由。
 春三月から冬の二月まで。一ヶ月単位で里山暮らしのありさまが物語のように展開する。短いエッセイ、たくさんの写真、今森氏によるペーパーカットの絵、三つの方法で。里山の光と影、空気の移ろいまでが、読者の心と体に染みこんでくる。(中略)
 各月には、「生き物図鑑」と「里山を味わう」というコーナーがあって、後者はとくに楽しく食欲を刺戟する。八月は「近江地鶏のソテー」、これもいいが、私は翌九月の「ビワマスのグリル」と「栗ご飯」にヨダレをたらした、というしだい。
 しかし、それらが現在の里山の収穫とすれば、そこに至るまでの里山づくりがいかなるものだったかが、そこかしこに静かに語られて、それが本の底流をなしている。
 最初に偶然に土地を得て、里山をつくろうと思ったとき、思い切って、三百本のヒノキを切った。そしてクヌギとコナラの幼木を植えた。里山に必須の雑木林が現在ようやくできはじめたところ。
 さらには、田んぼはやらないかわりに、小さなため池をいくつかつくった。これによって、生息する生き物の数がうんと増えた。
 性質の異なる環境が集まる端境の場所をエコトーンというが、そこは集中的に生き物の密度が高い。よく管理されている里山こそはエコトーンの代表格で、だから日本の自然の豊かさの象徴だった。それを失くしてはならないという思いが、今森氏の行動になったのを知るのである。
 夏休みに向けて、大人も子供も里山を知る。あるいは学びなおすにふさわしい一冊である。

(引用終了)
<毎日新聞 7/5/2015(フリガナ省略)>

本には134種類以上の生き物(植物や虫、動物)たちが写真つきで紹介されている。オウムやハチドリ、ハイビスカスなどの素敵なペーパーカット作品も15点収録されている。勿論写真も素晴らしい。帯裏表紙には、

(引用開始)

里山は、手づくりできる小さな楽園――。

ささやかながら、アトリエをつくるとき、周辺の環境をすべて宝物につくり変えようと考えました。それが、この庭の物語です。庭は、私にとって里山の自然をみつめる窓であり、教科書であり、実験場でもあります――今森光彦

(引用終了)

とある。

 里山とは「人里近くにあって人々の生活と結びついた山・森林」(広辞苑)ということで、一般的には複数の家々が共同して利用する場所を指すが、今森氏はそういう場所が戦後次第に失われていくことに危機感を覚え、孤軍奮闘、自分のアトリエを「生きものの集まる小さな里山」として再現したわけだ。場所は琵琶湖に注ぐ天神川流域、遠くに比良山連峰を望む。

 「理念濃厚企業」の項などでその著書を紹介してきた建築家隈研吾氏は、最近、雑誌『ソトコト』(8/2015号)の小川和也氏とのインタビューの中で、100年後の建築やまちはどのようになると思うかという質問に対して、

(引用開始)

 100年後って、割とすぐきてしまうんですよね。たとえばいまから100年前、1915年のことを頭に描いてみると、いまとそんなに変わっていないわけですよ。
 変わるとすると、予定調和ではなく、なし崩し的に変っていく。外観は、庭化していくと思っています。要するに、環境に寄り添いまち全体が庭っぽくなっていく。20世紀に超高層の時代がきたわけですが、面白いまちというのは、超高層の建物で占拠されているまちではなく、全体、足元、歩く環境でまちの魅力を測るようになる。それが評価の基準となると、まちが庭っぽくなっていく。
小川 超高層建築時代の反動の側面もあるのでしょうかね。
 高い建物がよいという価値観はだんだん崩れていくんじゃないかな。20世紀の惰性として超高層も存在していたりはするけれど。超高層ビルやマンションは、経済のシステムに基づいて建てられ、利益を改修、回転させていくモデルであって、人間の欲求によって立てられているわけではない面がありますから。人間が本能に従って、どのような空間に居住したいかというときに、それは必ずしも高い建物では無い。
 やはり人間にとって足周りの気持ちよさというのは一番大事なんですよね。そのような、人間の生物としての基本的欲求みたいなものが、ちゃんと経済のシステムにも反映されるようになると、まちはどんどん庭化していくと考えています。

(引用終了)
<同書 177ページ>

と述べている。これからは「庭園都市」の時代なのである。今森氏はその先駆者の一人だと思う。それは、モノコト・シフト(モノよりもコトに対する関心の高まり)とも踵を一にした動きの筈だ。

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posted by 茂木賛 at 10:18 | Permalink | Comment(0) | 街づくり

庭園を造る

2015年08月12日 [ 街づくり ]@sanmotegiをフォローする

 前回「庭園都市」の項で紹介した『庭の旅』と兄弟のような本がある。『木洩れ日の庭で』中谷耿一郎著(TOTO出版)がそれで、同じ出版社から11ヶ月ほど隔てて出版された。

『庭の旅』:2004年6月初版
『木洩れ日の庭で』:2005年7月初版

(引用開始)

自然体で生きたいと願うすべての人へのメッセージ。
八ヶ岳のふもとに住まい
四季折々の自然とともに生きるランドスケープ・デザイナーの
森の中の小さな暮らしから生まれた、人生を愉しむ庭づくり。

(引用終了)
<同書帯表紙より>

ということで、これは造園家の中谷氏が、庭造り(土や石、花や樹、森や小川、家や生活、四季や風景など)に関する思考や美意識を、ご自身の撮った見事な写真と共に、二十二の章に収めた美しい本だ。

(引用開始)

 ランドスケープ・デザインの核心は、無垢の原生林から鉢植えの花や盆栽に至る、人と植物のよりよいかかわり合い方、もしくは折り合いのつけ方を見つけ出すことにあるのではないかと常々思っている。特に森や森に近い里での暮らしのスタンスは、各自が苦痛を感じたり生活に支障をきたしたりしない範囲で、できるだけ自然度の高い環境を維持することでありたいと思う。

(引用開始)
<同書 86−87ページ>

という言葉に、氏のバランスの取れた思考・美意識が簡潔に纏められている。

 南北に長く、また標高差が大きい日本列島には、地球上の植生の大半があるという。変化に富んだ四季と豊な植生、それらをどう生かすか。この本は、庭づくりを目指す人にとって良き参考となるに違いない。

 私は以前、この本を読んだことがあった。今回『庭の旅』を読んだのを機に再読し、土のことや石、水の扱いなど細部に関する知見を再認識した。写真の美しさにもあらためて感動した。

 中谷氏の庭は、『庭の旅』の方でも、「デザインは齢を重ねた心の地図 造園家が暮らす小さな山荘と小さな庭」として紹介されている。白石氏が中谷氏の造園に共鳴し、八ヶ岳の麓の中谷宅へ出かけたときの体験を基にしたものだ。奥さまの白井温紀さんが描いた中谷邸全体図もある。

 庭園都市計画家と造園家(ランドスケープ・デザイナー)。それぞれの本の「あとがき」によると、その後のお二人の付き合いのなかで、まず中谷氏が白石氏にある出版社を紹介し、その会社の雑誌に白石氏が記事を連載したことで、2004年に『庭の旅』が生まれた。それとは別に、中谷氏もある建築系の雑誌に記事を連載していた。それを読んで、こんどは白石氏がTOTO出版に話をもちかけ、11ヵ月後に『木洩れ日の庭で』が生まれた。二つの本が兄弟だという所以である「スモールワールド・ネットワーク」や「ハブ(Hub)の役割」を地で行くような話しではないか。幸せな二冊の出版を喜びたい。

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posted by 茂木賛 at 11:38 | Permalink | Comment(0) | 街づくり

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