先日「
自然の捉え方」の項で、『唱歌「ふるさと」の生態学』(ヤマケイ新書)という本のことを書いたが、もう一冊、同新書シリーズから最近出た『日本の森列伝』(米倉久邦著)についても併せて紹介しておきたい。前者は山と川、里山の生態学であり、後者は森と人とが織り成す物語である。まずは新聞の紹介文から。
(引用開始)
国土の7割が森林、緯度や標高により亜寒帯から亜熱帯までの植生を持ち、多様な樹木を育てる日本の森。北海道のブナ林から西表島のマングローブの森まで、12の森の歴史や生態系を記述。山の恵みの暮らしを支える豪雪の奥会津ブナ林、国家運営と宗教に関わる歴史の色濃い比叡山の人工林…。環境保全や気候変動など今の問題も背景に説明する。
(引用終了)
<東京新聞 5/24/2015(フリガナ省略)>
本帯の紹介文も引用しよう。
(引用開始)
海を渡ったブナの謎、海底に沈む太古の埋没林、宗教と国家権力に翻弄された山――知れば知るほど深い日本の森。(帯表紙)
森のインストラクターであり、元・共同通信記者でもある筆者による、森林大国・日本の12の森のルポ。北海道から沖縄まで、強烈な個性と存在感を持つ森を訪ね、生命の生存競争の奥深さ、そして人との関わりが生んだ知らざれる歴史を追う。(帯裏表紙)
(引用終了)
本の構成は、
●北海道黒松内・北限のブナの森
―ブナ、10万年の彷徨、北から南へ、そしてまた北へ
●山形県・庄内海岸砂防林
―厳冬の季節風が巻き起こす砂嵐、植えては枯れる辛苦の400年
●福島県・奥会津原流域の森
―豪雪の山で生き抜く人と植物たちのしたたかな知恵
●新潟佐渡島・新潟大学演習林
―冬の豪雪と夏の霧、離島が育んだ知らざれる神秘の森
●富山県立山・稜線を覆うタテヤマスギの森
―屋久島をはるかの凌ぐ巨大スギ群、謎に満ちた生態
●富山県・魚津洞杉の森
―埋没林が語る巨木伝説、太古の森はなぜ海底に沈んだのか
●長野県松本市・上高地の森
―標高1500mの稀有な空間に秘められた300年伐採の歴史
●静岡県伊豆半島・天城山の森
―フィリッピン沖プレートが運んできた大地
●滋賀県・比叡山延暦寺の森
―宗教と国家権力に翻弄されながらいまに続く森
●奈良県・春日山原始林
―神鹿降臨に始まる神の山は、シカの食害で衰退の危機
●紀伊半島・大台ヶ原の森
―南限のトウヒ白骨林が教えてくれるのは、人災か自然現象か
●沖縄県西表島・マングローブの森
―汽水線に生きる不思議の樹木たち
となっている。これをみてお分かりのように、それぞれの森の生態が魅力的な話題と共に目の前に広がる愉しい本だ。本文(まえがき)からも引用したい。
(引用開始)
日本列島は南北に長い。北海道から沖縄まで、大まかにいってざっと3000kmにも及ぶ。北の北海道は亜寒帯、東北は冷温帯、南にいくについれて温暖帯へと代わり、沖縄の南端は亜熱帯のはずれになる。しかも、日本の国土は約7割が森林に覆われている。世界でもトップクラスの森林国である。気候の違いは、その土地に生育する森林の違いをもたらす。日本列島の位置と地形が、世界のどこにも見られないような多様な森を育んでいる。北から南まで個性のある森にあふれている。
そうと知れば、行かずばなるまい。視点をひとつ、付け加えた。「人」である。日本の森の60%は天然の森だ。だが、いわゆる「手付かずの森」というのは、ほとんどない。太古の昔から、日本人は森と暮らし、森の恩恵を受けて命をつないできた。時には森から奪い、森を破壊してきた。人は森にどうかかわってきたのか。それを知らなければ、日本の森を知ることにはならない。そう思うのは、ジャーナリストの性のせいだろう。
(引用終了)
<同書 4ページ>
この本の後半、奈良県・春日山原始林や紀伊半島・大台ヶ原の森のところで、最近増えてきた鹿による被害の話が出てくる。人はどこまで自然に関与し、管理すべきなのかということなのだが、確かに難しい課題だ。最近の新聞に白神山地でも鹿の目撃情報が急増しているとあった(東京新聞夕刊 6/29/2015)。
5月に施行された改正鳥獣保護法も読んでみたが、こういう場合必要なのは、まず、地域の人々がその森をどのようにしたいのか、そこで何を達成したいのか、という「理念と目的」を書き出してみることだと思う。生態系のバランスが大事なのか、あるがままに任せ変化を受入れるのが良いのか。その土地の山岳信仰との関係や里山システム、流域価値、観光資源としての活用、産業用、防風林や砂防林として、津波対策用、学術研究のため、住民の憩いの場としてなどなど。重複する場合は優先順位付けや区分けを行なう。ただなんとなくではいずれ腰砕けになってしまうだろう。
複眼主義では、
A Resource Planning−英語的発想−主格中心
B Process Technology−日本語的発想−環境中心
という対比のバランスを重視している。管理という側面ではA側の「Resource Planning」、つまり資源の最適化を図る力が求められる。今の日本(語)人はこちら側が弱い。だから、理念として生態系のバランスの方が大事だと決めても、狩猟のためのResource(知識や情報、人や道具、流通網など)が不足して、対応が後手後手になってしまう、あるいはやり過ぎてしまう可能性もある。この点にも留意すべきだと思う。
先日青森の奥入瀬へ旅行した際、白神山地の方も少し歩いてきた。鹿には出会わなかったけれど。これからも読書や体験を通して、森林についての解像度(理解度)を高めて行きたい。
尚、森についてはこれまで、
「
牡蠣の見上げる森」
「
森の本」
「
森ガール」
「
里山と鎮守の森」
などを書いた。併せてお読みいただければと思う。