夜間飛行

茂木賛からスモールビジネスを目指す人への熱いメッセージ


共生の思想

2015年05月27日 [ 非線形科学 ]@sanmotegiをフォローする

 『腸内細菌と共に生きる』藤田紘一郎著(技術評論社)という本を面白く読んだ。この本のテーマは「共生」だが、ここでいう共生とは「一つの生存圏に多種多様な生物が棲んでいる状態」のことではなく、「一つの生き物に他の様々な生き物が一緒に住んでいる状態」を指す。本の構成は以下の通り。

第1章 すべては「共生」で成り立っている
第2章 共生思想を生んだ「カイチュウ」との出会い
第3章 共生細菌から見た「腸」と「脳」の不思議なつながり
第4章 共生を支える「エピジェネティクス」とは

 エピジェネティクスとは、「遺伝子の配列によって生物の振る舞いや生き方がすべて決まってしまうわけではなく、そこには後天的な要素も大きく影響している」(同書144ページ)ことをいう。以前「遺伝子の平行移動」の項で、藤田氏の他の著書に触れ、エピジェネティクスは、遺伝子という“モノ”から、環境と細胞の相互作用という“コト”への関心のシフトということで、このブログで指適しているモノコト・シフトの一例だと思うと書いたけれど、もともとエピジェネティクスは、この「共生」を支える仕組みなのだ。「共生の思想」こそこれからの時代に相応しい。

 著者は最近日本でよく起きる感染症について、その後書き(「おわりに」)の中で、

(引用開始)

 これまで再三指適してきたように、私は戦後、日本人が進めてきた「清潔志向」と、それによる日本人の「無菌化」が関係しているように思います。
 1960年代半ばから日本人に多発してきた花粉症やアトピー性皮膚炎、気管支喘息などのアレルギー性疾患や2000年頃から急増したうつ病などの病気も、この日本の「無菌化」と密接な関係を持っていたのです。
 戦後の日本人の清潔志向は、次第にその度合いを強めてきて、最近では身の回りの人が生きていくための必要な「共生菌」(共生している菌)まで排除し始めました。この共生菌の排除が新しく感染症や病気を生み、一方では人間の免疫力を低下させるように働いたのです。この「共生菌」の排除はいつの間にか「異物」の排除に繋がったのです。近頃では、若い日本人の間に、自分の出す汗や匂いまでも排除する傾向が見られ始めたのです。
 このような傾向は、もはや人間が「生物」として生きる基盤さえ奪い、そして、それは人間の精神的な面にも影響を及ぼし、日本人の「感性の衰弱」まで引き起こしているように思えるのです。
 本稿では「共生の思想」をないがしろにしている人類が自ら生命を危うくしているばかりでなく、地球上の生物全体を絶滅に追いやっている状況について解説しました。

(引用終了)
<同書 187-188ページ(括弧内は引用者による註)>

という。今の自然破壊は、我々の体外においてだけでなく、体内でも進んでいるわけだ。我々の身体にとって何が問題で、何が問題でないのか、これらの本をよく読んで理解を深めたい。

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posted by 茂木賛 at 15:37 | Permalink | Comment(0) | 非線形科学

交感神経と副交感神経 II 

2015年05月19日 [ 非線形科学 ]@sanmotegiをフォローする

 前回「吉野民俗学と三木生命学」の項で触れた自律神経(交感神経と副交感神経)については、以前「交感神経と副交感神経」の項でかなり詳しく書いたが、『賢い皮膚』傅田光洋著(ちくま新書)によく纏まった文章があるので、整理のために引用しておきたい。複眼主義美学のような理論的構築物を作っていくには、建築と同じで細部への理解・目配りが欠かせない。すこし長くなるが、適時コメントを入れながら引用していく。尚、傅田氏の本や皮膚に関することは「皮膚感覚」「境界としての皮膚」などで紹介した。興味のある方はお読み下さい。

(引用開始)

 神経は脳と脊髄をひっくるめた中枢神経と、中枢神経から全身に伸びている末梢神経に区別されます。末梢神経には感覚神経、運動神経、自律神経があります。感覚神経は読んで字の如く、全身からの感覚刺激を中枢に伝達する神経です。運動神経は中枢神経で意識したことに従い骨格筋を収縮させて身体を動かします。いずれも秒速数十メートルの速度で情報を伝達します。

(引用終了)
<同書 30ページ>

ここは神経系全体の話だ。先日「複眼主義の時間論」の項で説明した部分と一部重なる。ここから先は自律神経の話になる。続きを引用しよう。

(引用開始)

 さて詳しく説明したいのが最後の自律神経です。この神経は無意識に作動しているので、「自律」と名づけられました。つまり意識ではコントロールできない神経とも言えます。具体的には血液循環、呼吸、排泄、体温調節などの生命維持機能を、我々が意識しないでいてもちゃんとコントロールしてくれている重要な神経系です。また本能や情動によって行動するときには、運動神経とうまく協調しながら働きます。また各種ホルモン分泌などを身体の内部、すなわち血管に分泌する内分泌、広義で身体の外部である消化管内や汗など身体の外に物質を分泌する外分泌にも自律神経は関与しています。

(引用終了)
<同書 30−31ページ>

ここは自律神経全体の働きについてまとめた部分だ。呼吸に関する話は以前「呼吸について」の項で詳しく触れた。健康管理に興味のある人はそちらをお読みいただきたい。さらに引用を続けよう。

(引用開始)

 この自律神経はさらに交感神経と副交感神経とに区分されます。
 交感神経は中枢神経の胸腰髄から出ています。一方の副交感神経は中枢神経の上と下、脳幹と仙髄から出ています。その役割を簡単に既述すると、交感神経系はエネルギーを使う方向、興奮状態、攻撃態勢などの状況で活性化され、逆に副交感神経系は、エネルギーを蓄える方向、食事をして飲み込んで脈はゆっくりしてリラックス状態という状況で活躍しています。

(引用終了)
<同書 31ページ>

 複眼主義では、「生産」=「他人のための行為」、「消費」=「自分のための行為」とし、それを自律神経の対比と関連付ていける。すなわち、「生産」=「他人のための行為」=「エネルギーを使う交感神経優位」、「消費」=「自分のための行為」=「エネルギーを蓄える副交感神経優位」という対比・関連だ。詳しくはカテゴリ「生産と消費論」の各項を参照のこと。また、ここで体にとって大事なのは「交感神経は中枢神経の胸腰髄から出ています。一方の副交感神経は中枢神経の上と下、脳幹と仙髄から出ています。」という部分。どちらの自律神経系を活性化させたいかに応じて、呼吸や運動、体操や指圧などのやり方が分かれる。先を続けよう。

(引用開始)

 交感神経細胞の大部分はノルアドレナリンを放出して各器官や組織に作用します。アセチルコリンを放出する線維もあります。一方の副交感神経の大部分はアセチルコリンを放出します。各々の物質に対して作動するカギ穴のようなタンパク質、受容体があります。受容体については後で詳しく説明します。ノルアドレナリン、アドレナリンについては大別してα型とβ型があります。一方アセチルコリンについてはニコチン形受容体とムスカリン方受容体があります。これらは各々その作動物質に由来する名称で、ニコチンはいうまでもありませんが、ムスカリンはある毒キノコから抽出された物質の名前です。ノルアドレナリン、アセチルコリン、いずれの場合もそれがくっつく受容体によって作用が異なっています。

(引用終了)
<同書 31−32ページ>

ノルアドレナリンやアセチルコリンについては、以前「神経伝達物質とホルモン」の項でその働きを整理したことがある。併せて読むと理解が深まると思う。引用の最後は自律神経の作用の詳細だ。

(引用開始)

 以下におおざっぱですが、交感神経系、副交感神経系による作用を列挙しておきます。
 瞳孔は交感神経系で大きくなり(散瞳)、副交感神経で小さくなります(縮瞳)。交感神経系によって起きる現象は、気道の拡張、心拍数の増加、消化液の分泌抑制、射精、汗の分泌、鳥肌、などです。一方、涙、薄い唾液、鼻水、消化液、インシュリンが分泌されるのは副交感神経系です。副交感神経系ではそれ以外に気道の収縮があります。喘息の発作が睡眠時に多い理由です。また排尿、排便、勃起も副交感神経系によるものです。

(引用終了)
<同書 32ページ>

引用は以上。複眼主義による自律神経系の対比・関連付けを纏めると以下の通りとなる。

<交感神経優位>

社会活動:生産=他人のための行為
活動属性:理性的活動
美的意識:早く走り高く上ることへの憧れ(反重力美学)

<副交感神経優位>

社会活動:消費=自分のための行為
活動属性:感性的活動
美的意識:長閑な安らぎと古への懐かしさ(郷愁的美学)

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posted by 茂木賛 at 09:29 | Permalink | Comment(0) | 非線形科学

吉野民俗学と三木生命学

2015年05月12日 [ 非線形科学 ]@sanmotegiをフォローする

 ここまで「吉野民俗学」と「三木生命形態学」の両項で、

『隠された神々』吉野裕子著(河出文庫・2014年11月)
『日本人の死生観』吉野裕子著(河出文庫・2015年3月)
『内臓とこころ』三木成夫著(河出文庫・2013年3月)
『生命とリズム』三木成夫著(河出文庫・2013年12月)

の四冊を紹介したわけだが、吉野民俗学も三木生命学も21世紀に復活すべき地味だが重要な学説だと思う。

 この昭和期に活躍した二人の学者(三木成夫1925−1987、吉野裕子1916−2008)の仕事は一見かけ離れているように見えるけれど、吉野民俗学の、日本の古代信仰は「母なる自然(母胎)を中心とした同心円的世界観を持っていた」という指適、三木生命学の「人体構造は体壁系と内臓系の双極性を持つ」という知見とそこから発展した西原重力進化学、これらは複眼主義の定立にとても役立つこととなった。

 西原重力進化学の交感神経と副交感神経系、三木生命形態学の体壁系と内臓系、この二つの対極性から生まれたのが、反重力美学(交感神経)と郷愁的美学(副交感神経)、男性性(体壁系)と女性性(内臓系)の四つの組合せによって美意識を分類する「複眼主義美学」である。
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 古代信仰から連綿と続く、日本人の「自然に偏した意識構造」を組み込んだ複眼主義美学の成果は、<宇宙的郷愁とは何か>などとして、最近、電子書籍サイト「茂木賛の世界」の『百花深処』に載せたのでお読みいただけると嬉しい。

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三木生命形態学

2015年05月05日 [ 非線形科学 ]@sanmotegiをフォローする

 前回「吉野民俗学」の項で河出書房新社の文庫による名著復刻に触れたが、生命形態学者三木成夫の本も、最近同社から読みやすい文庫の形で二冊出版されている。

『内臓とこころ』三木成夫著(河出文庫・2013年3月)
『生命とリズム』三木成夫著(河出文庫・2013年12月)

がそれだ。まず内容について文庫カバー裏表紙の紹介文を転載しよう。

(引用開始)

『内臓とこころ』
「こころ」とは、内臓された宇宙のリズムである――おねしょ、おっぱい、空腹感といった子どもの発育過程をなぞりながら、人間の中に「こころ」がかたちづくられるまでを解き明かす解剖学者のデビュー作にして伝説的名著。四億年かけて進化してきた生命(いのち)の記憶は、毎日の生活の中で秘めやかに再生されている!育児・教育・保育・医療の意味を根源から問いなおす。
解説=養老孟司

『生命とリズム』
「イッキ飲み」や「朝寝坊」「ツボ」「お喋り」に対する宇宙レベルのアプローチから、「生命形態学」の原点である論考、そして感動の講演「胎児の世界と<いのちの波>」まで、『内臓とこころ』の著者が残したエッセイ、論文、講演をあますところなく収録。われわれ人間はどこから生まれ、どこへゆくのか――「三木生命学」のエッセンスにして最後の書。

(引用終了)

『内臓とこころ』の新聞紹介文も引用しておこう。

(引用開始)

 解剖学者が心の起源を解き明かした名著の復刻。
 解剖学的には、手足や脳は目や耳の感覚器官と一緒に「体壁系」と呼ぶという。魚をさばいたときに、はらわたを取り出した残りが体壁系だ。その取り出したはらわた=内臓系の感覚がどのようにできてくるのかを、膀胱や空腹時の胃、乳児が乳を吸う時の唇の感覚を例に解説。生命の主人公はあくまでも食と性を営む内臓系であり、感覚と運動に携わる体壁系は、手足に過ぎないという。人類が内臓感受系の覚醒により森羅万象に心が開かれてきた過程を、赤ん坊の成長に見られる好奇心の発達を重ね合わせながら概観する。

(引用終了)
<日刊ゲンダイ 4/24/2013>

 三木成夫の生命形態学については、先日「時間論を書き換える」の項で、その個体発生と系統発生の密接な関係性の知見が時間論の書き換えの糸口の一つになるだろうと書いたけれど、それとは別に、人体構造の解剖学的説明が面白い。それについては以前「体壁系と内臓系」「南船北馬」「“しくみ”と“かたち”」などの項で紹介したことがある。

 体壁系と内臓系の双極性は、複眼主義の基幹を成す対比の二つのうちの一つだ。まとめた図(一部)を参考までに載せておこう。

img011.jpg

 『内臓が生みだす心』(NHKブックス)の著者西原克成氏は、三木生命形態学を継いで生物の進化を研究し、『生物は重力が進化させた』(講談社ブルーバックス)を著した。「重力進化学」はそれを紹介したものだ。

 西原重力進化学では自律神経(交感神経と副交感神経)のうち交感神経そのものが「重力」によって発生したとする。この交感神経由来の美意識を私は「反重力美学」と名付けた。2010年のことだからもう今から5年も前になる。

 そして、その対極の副交感神経由来の美意識を2015年2月に「郷愁的美学」と名付けて発表した。

 交感神経優位=反重力美学と副交感神経優位=郷愁的美学の双極性は、複眼主義の基幹を成す二つの対比のうちのもう一つ、「集団」と「個人」との間の対比だ。こちらも図を載せておこう。
img012.jpg
 三木生命形態学は、あの吉本隆明が「もっとはやくこの著者の仕事に出会っていたら、いまよりましな仕事ができていただろうに」と後悔した(『海・呼吸・古代形象』三木成夫著<うぶすな書院>解説より)くらい大切な理論である。まだの人はすぐ手に入る河出文庫二冊から読み始めていただきたい。そして『胎児の研究』(中公新書)や『生命形態学序説』(うぶすな書房)、『海・呼吸・古代形象』(うぶすな書房)へと進んでいただきたい。

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posted by 茂木賛 at 12:28 | Permalink | Comment(0) | 非線形科学

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