前回「食品添加物」の項で参照した“「酵素」がつくる腸免疫力” 鶴見隆史著(大和書房)には、「短鎖脂肪酸」の話も出てくる。短鎖脂肪酸とは、飽和脂肪酸の一種で、炭素数6以下のものを指す。炭素の鎖の連結が短いために分解されやすいという。この短鎖脂肪酸、研究が始まったのは1940年頃のことだが、その働きが突き止められたのは、なんと今から十数年前(2000年ごろ)のことらしい。時と共に知見がどんどん新しくなるという典型的な例だが、我々の健康に大いに関係があるようなので紹介しておきたい。短鎖脂肪酸のことは、以前「酵素の働きと寿命との関係」の項で紹介した同じ鶴見氏の“「酵素」の謎”(祥伝社新書)にも出てくる。だが今回は“「酵素」がつくる腸免疫力”から引用しよう。
(引用開始)
短鎖脂肪酸とは、酢酸、プロピオン酸、酪酸といった炭素数6以下の有機酸で、飽和脂肪酸です。これらは、水溶性の食物繊維やデンプンなどの糖質の発酵で生じる物質ですが、この短鎖脂肪酸をつくるときに働くのが、腸内細菌の善玉菌です。これらの有機酸が人間の免疫力を上昇させたり、健康を維持・向上させるうえで、大変重要な役割を果たしていることがわかってきているのです。
発酵で生じた短鎖脂肪酸は、その95パーセントが大腸粘膜から吸収され、すべての消化管と全身の臓器の粘膜上皮細胞の形成と増殖を担っているのです。これがないと大腸壁の維持ができず、不足すると粘膜に隙間ができ、細菌が体に進入しやすくなります。
短鎖脂肪酸は粘液を分泌させる働きもしているので、不足すると胃液や腸液、膵液、胆汁も十分な分泌ができないことになります。胃などは、胃粘液がないと胃壁から出る強い塩酸(胃酸)ですぐに穴が開いてしまいます。唾や涙や鼻水などの体液も、この短鎖脂肪酸がつくっているのです。
その働きは、それにとどまらず細胞内のミトコンドリアにはたらき、エネルギーの活性化を促しています。腸のPH(ペーハー)も下げ(弱酸性にする)、殺菌力も高めてもいます。さらに、短鎖脂肪酸の中の酪酸は、がんのアポトーシス(→101ページ)にも関わっているので抗がん効果もあるのです。
(引用終了)
<同書 119−120ページ。フリガナ省略>
いかがだろう、世の中には別の考え方もあるから全てを鵜呑みにする必用はないだろうが、牛や馬などの草食動物が食物繊維だけで強い筋肉を作ることなども考え併せると、その発酵によって生じる短鎖脂肪酸が身体に良い働きを齎していることは確かのように思える。
ここで、よい機会だから、食物繊維そのものの役割全般についても纏めておこう。これは“「酵素」の謎”から抜書き(箇条書き)する(162ページ)。
1. 便の構成要素となり、便量を増やす
2. 腸の蠕動運動を活発にして、内容物を速やかに移動させる
3. 発がん物質、有害菌、有害物質を吸着して、便として排泄する
4. 消化管の働きを活発にする
5. 糖の吸収速度を遅くして、食後の血糖値の上昇を防ぐ
6. 胆汁酸を吸着して、便として排泄する
7. コレステロールの余分な吸収を防ぐ
8. ナトリウムの過剰摂取を防ぐ
9. 善玉菌のエサになり、腸内環境を改善する
10.膵液や胆汁の分泌量が増え、酵素の量を多くする
11.不溶性食物繊維キチン・キトサンは、脂肪の過剰摂取を抑制する
12.短鎖脂肪酸のエサになる
という具合。短鎖脂肪酸など、腸内細菌と食物繊維とコラボレーションの詳細は、さらにこれら本をお読みいただきたい。さて、とりあえず体内の短鎖脂肪酸を増やすにはどうしたらよいか。ふたたび“「酵素」がつくる腸免疫力”に戻って引用する。
(引用開始)
短鎖脂肪酸を増やす食品を紹介しておきます。いちばんはわかめ昆布などの海藻類、りんご、バナナなどのよく熟した果物に含まれている水溶性の食物繊維です。穀類、大豆、きのこ類にある不溶性の食物繊維のほか、黒酢、酢、梅干し、ピクルス、酢の物、らっきょう、漬物、キムチなどの発酵食品もそうです、これらの食品は、血液をサラサラにする効果もあります。
(引用終了)
<同書 122ページ>
ということで、味噌、醤油、納豆、酢、漬物など発酵食品の多い日本の伝統食が身体に良いといわれる理由がよく分かる。尚、発酵食品については、“100歳まで病気知らずでいたければ「発酵食」を食べなさい”白澤卓二著(河出書房新社)という本もある。これらの本を参考にして、日々の健康に留意していただきたい。