夜間飛行

茂木賛からスモールビジネスを目指す人への熱いメッセージ


贅沢な週末

2011年10月31日 [ アート&レジャー ]@sanmotegiをフォローする

 先々週の週末、私は友人が主催する「斑尾国際音楽村ライブ」のお手伝いを兼ねて、二泊三日で信州・斑尾を訪れた。地域の活性化を目指した「斑尾国際音楽村」については、これまで「競争か協調か II」や「元気なリーダー」の項でも紹介したことがある。

 土曜日、飯山駅からタクシーで斑尾高原ホテルに着いたのは、まだ午後の早い時間だった。さっそくホテルの温泉で汗を流し、ちょうど近くの希望湖のハイキング・イベントを終えたはずの友人、内ヶ崎さんに電話する。彼女はペンション“ぶーわん”でこの関連イベントに参加した皆さんとランチ・パーティーのさ中だった。

 ホテルから歩いて5分の“ぶーわん”で内ヶ崎さんや皆さんと合流し、そこで今回の「斑尾国際音楽村ライブ」で演奏するノルウェーのデュオ“PICIDAE”にお会いした。“PICIDAE”のTaraとErikのお二人も、そのハイキング・イベントに参加していたのだ。そこで美味しい北欧紅茶をいただく。

 土曜日の公演は、これもホテルから歩いて5分ほどのところにある斑尾高原絵本美術館で、夜の7時半から行なわれることになっていた。私のお手伝いは、公演中Taraが英語で曲を紹介するのを日本語に訳すことなので、その段取りを二人と相談する。“PICIDAE”は、竪琴やオートハープ、音量を絞ったトランペットなどをバックに、主にTaraが静かな歌声を響かせる新感覚のデュオだ。パンフレットには“ノルウェーの森の吟遊詩人”とある。

 絵本美術館で公演の準備を皆で始めたのは午後5時からだった。オランダのミイッフィーのシルクスクリーン作品などが展示されているメイン・フロアーに40人ほどの席を設置、ショップ・エリアにソフト・ドリンクやスナックのバーを開設、照明やステージの準備も整って、予定通り7時半から、こじんまりとした、しかし暖かい雰囲気のコンサートが始まった。

 曲数はアンコールを含めて全18曲。曲の前にTaraが語る短い英語を私が日本語にするのだが、うまく伝えることが出来たかどうか。彼女の心の優しさやユーモアは観ているだけで充分わかるので、私は内容をできるだけ短く的確に伝えることを心掛けた。それでも皆さん笑うところで笑ってくれたから、まあまあだったのではないかな。

 コンサートのあとはショップ・エリアでのお客様を交えた懇親会、そのあと関係者だけでの遅い夕食。夕食は近くのレストラン・バーJazzyにて。Jazzyの壁には、斑尾ジャズフェスティバル時代の貴重な海外音楽家たちのサインや写真が所狭しと飾ってあった。

 翌日曜日の公演は、ホテルから徒歩10分ほどのところにある斑尾高原紫音ハープミュージアムで、昼の1時半から行なわれた。世界各地から集められたハープが展示されているフロアーの真中に席を設置、別棟にソフト・ドリンクやスナックのバーを開設、照明やステージ、地元ネット放送局のカメラなどの準備を整えて、予定通り1時半からコンサートが始まった。

 拍手に包まれてアンコール曲が終わると、別棟でお客様を交えた懇親会が開かれた。歓談のあと、“PICIDAE”の二人は次の公演のために斑尾高原を後にした。私と内ヶ崎さんは、ミュージアム館長の坂田さんのご好意でそのままそこで夕食をご馳走になった。関係者の皆さんと地域活性化の話などをしながら酒を飲み交わし、私がホテルに戻ったのはすっかり夜が更けた頃だった。

 その晩、一度眠ってから深夜に起きて本を読む。読み始めたのは“フェルメール 光の王国”福岡伸一著(木楽舎)というとっておきの本。これは生物学者の福岡氏が、フェルメール作品の置かれた美術館を巡る紀行文で、以前ANAの機内誌「翼の王国」に連載されていたものだ。私は一部機上で読んだことがあり、その後まとまって単行本になるのを楽しみにしていた。

 福岡氏の文章は鮮やかで、小林廉宣氏の写真も美しい。その夜私はちょうど“旋回のエネルギー―――アイルランド”の項に差し掛かっていた。見えないけれど、部屋の窓正面に、夜霧を纏った晩秋の斑尾山が聳えているのがわかる。北信の山奥で、深夜、フェルメールの絵とアイルランドの海に想いを馳せる。そういえばTaraの母親はスコットランド出身で、彼女の歌には当地の民謡の趣があった。

 “PICIDAE”の音楽、絵本美術館、ハープミュージアム、高原と温泉、親切な友人たち、美味しい食事、それにフェルメールの本、とまあ今回はなんと贅沢な週末なことだろう!

 ちなみに、この小旅行に持参した本は、“フェルメール 光の王国”のほか、“DNAでたどる日本人10万年の旅”崎谷満著(昭和堂)と“熱とはなんだろう”竹内薫著(講談社ブルーバックス)の二冊。そのうち“DNAでたどる日本人10万年の旅”は、帰路の新幹線のなかで読了した。

 内ヶ崎さんや地元の皆さんが努力しておられる地域の継続的な活性化は、けっして容易ではない。しかし、多品種少量生産、食の地産池消、資源循環、新技術といった安定成長時代の産業システムにとって、このような自然と風光に恵まれた土地は正に理想的な筈だ。知恵と努力と人の繋がりで、賑わいの水車はきっとまた上手く回り始めるだろう。以前「贅沢の意味」の項で、贅沢な経験をした者はその分を別のかたちで社会に還元するだろうと書いたけれど、自分がこの地にさらに貢献ができることを願いつつ、私はベッドサイドの明かりを落とした。

 翌朝私は温泉に浸かり、朝食のあと近くを散歩した。あいにくの曇り空だったけれど、山道から東側をみると、遥か下を流れる千曲川を挟んで、対岸に北志賀の山々が遠望できた。そのあと、私は内ヶ崎さんの見送りを受けてバスで山を下りた。

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フレームとシークエンス

2011年10月25日 [ 街づくり ]@sanmotegiをフォローする

 先日ある雑誌を読んでいたら、建築家の隈研吾氏が次のような話をしていた。

(引用開始)

 そう。自然界は「フレーム」(意識の内側)と「シークエンス」(時間の流れ)で成り立っているんです。大きさや解像度の違うフレームが連続していくイメージです。それを巨大な平面で均質に考えようとしたのは、20世紀的科学の思考法であって、生物はそういう生き方じゃない。人間は、「フレーム」と「シークエンス」の中に自然とのつながりが体感できる。

(引用終了)
<ソトコト9/2011号86ページより>

隈氏のこの考え方は、以前「アフォーダンスについて」の項で述べた、

(引用開始)

 アフォーダンス理論では、我々の住むこの世界は、古典幾何学でいうような、直線や平面、立体でできているのではなくて、ミーディアム(空気や水などの媒体物質)とサブスタンス(土や木などの個体的物質)、そしてその二つが出会うところのサーフェス(表面)から出来ているとされる。そして我々は、自らの知覚システム(基礎的定位、聴覚、触覚、味覚・嗅覚、視覚の五つ)によって、運動を通してこの世界を日々発見する。

(引用終了)

というアフォーダンスの考え方と近いと思われる。

 隈氏のいう「シークエンス」(時間の流れ)とは、身体と環境との出会いであり、「フレーム」(意識の内側)とは、現在進行形の脳がそのときに注意(Attention)する対象を指すだろう。

 建物の立つ場所や環境が持つ力を探り出し、そのエネルギーを建築に生かそうとする隈氏の設計哲学については、これまで「広場の思想と縁側の思想」や「街のつながり」、「境界設計」の項などで見てきた。地場材料への拘り、歴史への配慮、自然環境の重視などなど。

 環境を均質なものとしてではなく、「フレームとシークエンス」の連続としてみることで、隈氏は、環境の持つ力をより柔軟に体感できているのだろう。氏の作品には、人工的な縦のヒエラルキー(階層性)とは無縁の、自然や環境と横のつながりを持つ魅力的な建物が多い。

 このフレームとシークエンスもそうだが、これからは「20世紀的科学の思考法」からの脱却が急速に進むと思われる。以前「流域思想」や「流域思想 II」の項で、新しい思考法の一つとしてアフォーダンスと流域思考との親和性について考察したが、これからもいろいろと新しい「21世紀的科学の思考法」について考えていきたい。

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仕事の達人 II 

2011年10月18日 [ 起業論 ]@sanmotegiをフォローする

 前回の「仕事の達人」に続いて、今回は仕事へのモチベーションをどうキープするかについて書いてみたい。勿論前回みた脳内物質のコントロールや起業家精神をもって進めば、モチベーションは保たれる筈ではあるけれど、そこは人間、仕事以外でいろいろと悩むことも多い。

 “ポジティブな人だけがうまくいく 3:1の法則”バーバラ・フレドリクソン著(日本実業出版社)という本は、人の心理状態をポジティブ(自己肯定的な心の状態)とネガティブ(自己否定的な心の状態)とに分け、モチベーションに関連してこの二つの比率に注目している。

 著者はアメリカの心理学者だが、様々な実験によって、ポジティブ比率がある点(転換点)を越えると、ポジティブ・フィードバックが掛かってその比率がさらに上昇することを確かめたという。逆に転換点を下回ると、人はネガティブ・スパイラルに陥ってしまうという。本のタイトルからも分る通り、その転換点の比率は、3:1(ポジティブ3:ネガティブ1)以上ということである。

 たしかに自己否定的な心理状態は人を落ち込ませる。なにごとも常に前向きに考えることは大切だ。ここで著者のいう「10のポジティブ感情」を挙げておこう。

1.  喜び(Joy)
2.  感謝(Gratitude)
3.  安らぎ(Serenity)
4.  興味(Interest)
5.  希望(Hope)
6.  誇り(Pride)
7.  愉快(Amusement)
8.  鼓舞(Inspiration)
9.  畏敬(Awe)
10. 愛(Love)

ということで、どれも自己肯定的な心理状態である。

 以前「モチベーションの分布」や「興味の横展開」で述べたように、個人のモチベーションは必ずしも会社の目標と合致するわけではないけれど、生きていく上でこれらのポジティブ感情を増やすことができれば、人生の目標を支える日々の仕事についても、前向きに取り組むことができるだろう。

 ところで、この本には3:1の比率の分析に関して、「バタフライ効果」の話が出てくる。その部分を引用したい。

(引用開始)

 ロサダの方程式は、マネジメントチームの行動がひとつの複雑系―――具体的にいうと、非線形動的システム―――を反映していることを示しています。非線形動的システムの顕著な特徴は、よく「バタフライ効果」という言葉で呼ばれます。些細に見えるインプット(たとえば、ある地域でチョウチョが羽をばたつかせること)が、のちに他所でそれと比較にならない大きな結果につながる、というような意味です。
 確かにポジティビティは「バタフライ効果」なのかもしれません。チョウチョの羽のばたつきのように、かすかなポジティビティが驚くほど大きな結果につながるからです。

(引用終了)
<同書178−179ページ>

ここでいうロサダの方程式とは「チーム行動の数学的モデリング」から導かれたチーム連結性を示す数式のことで、著者の「拡張―形成理論」と多くの点で整合するという。詳しくは本書をお読みいただきたいが、ある転換点を超えると、ポジティビティの拡張(上昇スパイラル)が起こるというのが「拡張―形成理論」であり、ロサダの方程式などと共にこの理論が「3:1の法則」のベースとなっている。

 バタフライ効果とは、気象学でよく使われるTermである。「仕事の達人」の項で挙げた脳内物質(神経伝達物質)のコントロールを仕事術への免疫学(生物学)的アプローチとすれば、このポジティブ比率の考え方は、いわば気象学的(物理学的)アプローチと云ってもよいかもしれない。

 以前「気象学について」の項で、免疫学と気象学への共通興味として「社会科学への応用」を挙げたけれど、免疫というミクロコスモスと気象というマクロコスモスの両面から中間のメゾコスモスを分析するというアプローチは、社会分析だけでなく、「仕事の達人」への道にも応用できるようだ。

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posted by 茂木賛 at 09:21 | Permalink | Comment(0) | 起業論

仕事の達人

2011年10月10日 [ 起業論 ]@sanmotegiをフォローする

 以前「人生系と生命系」の項で、
 
(引用開始)

人生の達人と呼ばれる人々は、「交わりにくいふたつの物語」をそよ風にでも準(なぞら)え、振幅が小さい呼吸や脈拍、脳波といった振動から、振幅が中位の昼と夜、気圧と気温、仕事と休息といったリズム、さらには幼年期、青年期、壮年期、老年期といった人生の大きな波動を、「1/f のゆらぎ」の要領で上手く同期(synchronize)させているのかもしれない。

(引用終了)

と書いたけれど、人生の達人の前に、まず「仕事の達人」になろうということで、今回は、“脳内物質仕事術”樺沢紫苑著(マガジンハウス)と、“スティーブ・ジョブズ 驚異のイノベーション”カーマイン・ガロ著(日経BP社)の二冊の本を紹介したい。

 まずは“脳内物質仕事術”から。脳内物質とは著者の造語で、そもそもドーパミンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質のことを指すという。新聞の紹介記事を引用しよう。

(引用開始)

脳の仕組みを利用した上手な働き方指南

 精神科医である著者が、ビジネスマンに向けて脳内物質を活かした仕事術を伝授。精神論で乗り切るのではなく、脳の仕組みを利用した上手な働き方を提案している。
 紹介されているのは、モチベーションを高める幸福物質「ドーパミン」、緊張感やプレッシャーで効率を高める「ノルアドレナリン」、興奮や怒りと関連して分泌される勝負物質「アドレナリン」、うつ病予防にも役立つ癒やし物質「セロトニン」、疲労回復に欠かせない睡眠物質「メラトニン」、認知機能とひらめきを高める「アセチルコリン」、究極の癒やし物質「エンドルフィン」の7つの脳内物質。これらはどれかが突出していてはダメで、バランスがよく分泌されていることが重要なのだという。例えばアドレナリンは、火事場のバカ力を出すには有効なものの、出しすぎれば疲弊状態に陥るのだとか。それぞれの脳内物質をオン・オフにするための食事法や生活術が紹介され、実践的だ。

(引用終了)
<日刊ゲンダイ 1/8/2011>

仕事には呼吸法も大切である。呼吸法については、以前「自律神経と生産と消費活動について」の中で述べたことがある。この脳内物質活用術と、仕事中の呼吸法とによって、昼と夜、仕事と休息などのリズムをより上手くコントロールできるようになる筈だ。

 “スティーブ・ジョブズ 驚異のイノベーション”は、アップルの創業者をモデルに、商品開発における起業家の理念を分りやすく7つに纏めたものだ。これも新聞の紹介記事を引用しよう。

(引用開始)

 本書を見てすぐ気付くのはベストセラーになった『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン』(日経BP社)の「二匹目のドジョウ」を狙った作品という点だ。著者も訳者も装丁も同じ。唯一異なるのは、前著がジョブズ氏の情報伝達力に焦点を当てたのに対し、今回は彼や米アップルの卓越した商品開発力をテーマにした点である。
 「シンク・ディファレント」。アップルを追われたジョブズ氏が返り咲いた翌年、同社が1997年から始めたキャンペーンのコピーだ。これを機にアップルは「iMac」「iPod」「iPhone(アオフォーン)」「iPad」と、強烈な勢いで世界を変える商品を世に出した。
 本書はその開発力の源泉はジョブズ氏の創造性にあるとし、7つの法則にまとめた。すなわち「大好きなことをする」「製品を売るな。夢を売れ。」「メッセージの名人になる」―――。前著でジョブズ氏の逸話を多数紹介したため、今回は他の成功者の話も交え、法則を説明している。
 興味深いのは外村仁氏の解説だ。「iPod」のアイデアは外部からの提案だが、先に話を聞いた日本の家電メーカーは皆、前例のない商品に「ノー」といったそうだ。まさに利用者視点に立ったジョブズ氏の感性が成功をもたらした。前著と合わせて読むと、日本企業に足りない何かが見えてくる。井口耕二訳。

(引用終了)
<日経新聞 8/21/2011>

書評に書かれなかった7つの法則の残りは、「宇宙に衝撃を与える」「頭に活を入れる」「1000ものことにノーと言う」「めちゃくちゃすごい体験をつくる」である。先日亡くなったジョブズ氏から我々が学ぶところはとても多いと思う。

 起業の理念については、「理念(Mission)と目的(Objective)の重要性」などで論じた。また、組織におけるリーダーシップについては「ホームズとワトソン」や「リーダーの役割」の項で述べた。

 7つの脳内物質活用術と呼吸法、起業理念と商品開発の7つの法則、リーダーシップの自覚などをもって、みなさんも「仕事の達人」への道を目指していただきたい。

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上を向いて歩こう

2011年10月04日 [ アート&レジャー ]@sanmotegiをフォローする

 この夏の終わりに、“上を向いて歩こう”佐藤剛著(岩波書店)という本を面白く読んだ。この本は、中村八大作曲、永六輔作詞で坂本九が歌った「上を向いて歩こう」の評伝である。

 本を読むきっかけは、新聞の書評に、坂本九の歌い方が世界的ヒットを生んだ、と書いてあったことだ。日本語と西洋のリズムについては、このブログでもこれまで「リズムと間」や「一拍子の音楽」、「クワタの傑作」などの項でいろいろと見てきた。「上を向いて歩こう」という曲において、坂本九のどのような歌い方が世界に認められたのだろうか。

 吉祥寺のジュンク堂の本棚に一冊だけあったこの本を手にしたとき、その厚さに一瞬気後れしたけれど、読み終わってみると買って良かったと思う。曲の評伝だけでなく、中村八大や永六輔、坂本九らその時代の音楽に携わった人々のこともよく描かれている。

 さてその歌い方だが、本書によると、

(引用開始)

 母音の響きが続く言語であるが故に、細かいリズムやサウンドに言葉がノリにくいのは、良くも悪しくも日本語の特徴である。
 だが坂本九は、ロックンロールの持つビート感を、日本語で表現できる歌唱法を、独自に発明した。歌声の響かせ方、母音の繰り返しから繰り出される、弾むようなリズムの感覚がひときわ新鮮だった。口を横に大きく開いた笑顔の状態で声を出すと、通常よりももれる空気が多くなり、その分だけ音としてなるタイミングが微妙に遅れる。それがビートを誘発するのだ。独特の歌い方は、前例のない新しい表現だった。

(引用終了)
<同書123ページ>

ということで、母音の「発音体感」を微妙にずらすことで、本来の日本語にないリズム感を出すことに成功しているらしい。

 坂本の歌い方にはそれ以外、ヒートカップと呼ばれる歌唱法や裏声、休符の巧みな使い方などがあるという。詳しくは本書をお読みいただきたいが、「クワタの傑作」で述べた桑田佳祐の歌唱法などと比べるとさらに興味深い。

 「上を向いて歩こう」は、1961年に日本で、1963年にアメリカでヒットした。私が10歳から12歳頃のことだ。私は1963年2月に日本からアメリカへ渡ったから、日本とアメリカ両方でこの曲を(ヒット時に)耳にする機会に恵まれた。そういう意味でもこの曲はとても懐かしい。

 ところで本の“あとがき”に、この作品はもともとスタジオジブリの月刊誌「熱風」に連載されたとある。この初夏に公開されたスタジオジブリ作品“コクリコ坂から”(企画・脚本宮崎駿、監督宮崎吾朗)にこの曲が挿入歌として使われたのは、そういう繋がりがあったからだろうか。

 “コクリコ坂から”の時代背景は1963年、舞台は春の横浜だという。今年の春、映画のことはまだ知らなかったが、私は親しい友人と横浜中華街から山下公園のあたりを散策した。今年の横浜、映画のスクリーンに描かれた63年当時の横浜、スクリーンから流れる坂本九の歌声、63年当時アメリカで聴いた坂本九の歌声、それらが頭のなかで交錯する。

 それにしてもこの夏、楽しい映画と懐かしい音楽、それにためになる優れた本を用意してくれた、スタジオジブリに感謝したい。

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