夜間飛行

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住宅からの象徴の消失

2016年08月23日 [ 公と私論 ]@sanmotegiをフォローする

 『日本の家』中川武著(角川ソフィア文庫)という本を読んだ。去年(2015年)10月に出版された文庫。元の単行本は2002年6月TOTO出版から刊行されたと奥付にある。建築史家が日本の家屋の詳細を綴ったもので、手軽だが写真や図も多く巻末の用語解説も充実している。本カバー裏表紙の紹介文を引用しよう。

(引用開始)

たとえば大黒柱に縁側、上がり框や雪見障子、畳に襖――日本の家には四季を取り入れ、古来の習俗と共に生きてきた先人の知恵と情緒、美意識が込められている。その歴史や変遷、計算された構造を紐解きながら、家の持つ本来の意味、住まうとは何かを考える。生活が西欧化し、自由なデザインや利便性の高い住宅建築が急増する現代、伝統的な家のしつらいを見直し、世界が憧れた日本建築の全てを美しい写真と共にたどる決定版!

(引用終了)

 本の内容は、「境界空間」や「仕切り」などといった項目ごとに、<三和土(たたき)><上がり框>といった細目が並ぶ。目次を列記すると、

「境界空間」
<三和土(たたき)>
<上がり框(あがりかまち)>
<沓脱石(くつぬぎいし)>
<縁側(えんがわ)>
<土庇(どひさし)>

「仕切り」
<格子(こうし)>
<葦簀(よしず)>
<襖(ふすま)>
<雪見障子(ゆきみしょうじ)>

「場」
<囲炉裏(いろり)>
<風呂(ふろ)>
<茶の間(ちゃのま)>
<勝手(かって)>

「部位」
<大黒柱(だいこうばしら)>
<長押(なげし)>
<押板(おしいた)>
<天井(てんじょう)>

「しつらい」
<畳(たたみ)>
<箱階段(はこかいだん)>
<箪笥(たんす)>

「素材」
<漆(うるし)>
<瓦(かわら)>

「象徴」
<仏壇(ぶつだん)>
<表札(ひょうさつ)>
<地鎮祭(じちんさい)>

ということで、今の洋風家屋では忘れられた細目も多くあって勉強になる。

 このブログではこれまで、「広場の思想と縁側の思想」「境界設計」などの項で、日本家屋における「境界」の特徴を見てきたが、この本の「境界空間」「仕切り」では、その歴史や構造についてより詳細に知ることができる。

 日本の家屋は、当然のことながら、日本の家族制度と共に変遷してきた。戦前までの日本では、「公」=父性は、「個人」ではなく「家」によって担われていたが、戦後、新憲法がそれを壊して「個人」に置き換えた。近代の産業構造とも相俟って、家族制度は「家父長制」から「近代家族(核家族制)」に移行したが、個人の精神的自立が進まない日本において、「公」の担い手の(家から個人への)移行はスムーズではなかった。社会制度との整合も進まず、育児・教育・雇用・介護・相続などの面で、家族と社会における責任と権限の混乱は今も続いている。

「場」
<囲炉裏(いろり)>
<風呂(ふろ)>
<茶の間(ちゃのま)>
<勝手(かって)>

「象徴」
<仏壇(ぶつだん)>
<表札(ひょうさつ)>
<地鎮祭(じちんさい)>

の各細目は、このあたりのことを考える上で参考になる。「象徴」という項目の下に付けられた短い文章を引用したい。

(引用開始)

住宅とは何か、と問われれば、すぐには答えられないほど多くの説明が必要なように思われる。では、住宅を象徴するものは何か、という問いではどうだろうか。その答えの一つに、家族があるだろう。では家族とは、と問うと、また曖昧になってくる。そこで強引に、家族を象徴するものは生と死である、と考えることにする。現在(いま)、住宅から生と死が消滅しつつあり、家族共同体や、地縁から縁遠くなって久しい。これらはもちろん、本来象徴的にしか住宅に含むことができないものであった。この、住宅からの象徴の喪失こそ、伝統的な日本住宅の衰退の始まりだったのではないだろうか。

(引用終了)
<同書237ページ>

 近代の産業構造は二一世紀になってさらに変わり、これからは「新しい家族の枠組み」が必要とされるようになってきた。「家父長制度」→「近代家族(核家族制)」→「新しい家族の枠組み」といった変遷とその混乱を、「住宅からの象徴の消失」といった観点からみるのは面白い。

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posted by 茂木賛 at 10:51 | Permalink | Comment(0) | 公と私論

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